謝々々。
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・断食か、行乞か。
・閑愁
・うれしがりや
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 七月廿九日[#「七月廿九日」に二重傍線] 晴曇。

早く起きた、朝蝉まことによろし。
何となく倦怠、顔を剃り、身体を水拭きする。
すなほにつゝましく読書。
今日は一句もなかつた、それでよろし、それもよからう。

 七月卅日[#「七月卅日」に二重傍線] 曇。

落ちついて、――蝉も私もきり/″\すも。
今日も郵便は来なかつた。
胡瓜一つ――一つしか生《ナ》つてゐない――をもいで御飯をたべる。
私としてはめづらしく頭が痛い、散歩、暮羊居で、ラツキヨウを下物にコツプ酒。
夕方、樹明君来庵、飯が食べたいといはれても、麦飯、胡瓜、味噌、そして白湯しかなかつた、杉の葉を燻して、しばらく漫談。
しづかさ、さびしさ、かなしさ、早く寝た。
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軽く詠うて深く感じさせる[#「軽く詠うて深く感じさせる」に傍点]。
良心――意志――行動
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 七月卅一日[#「七月卅一日」に二重傍線] 曇、微雨。

沈欝。――
涼しすぎる、秋風のやうな。――
五日ぶりに、やつと郵便が来たことは来たけれど。――
煙草がなくなつた、食べるものもなくならうとしてゐる。
シヨウユウライス[#「シヨウユウライス」に傍点]!
歳[#「歳」に傍点]事[#「事」に「マヽ」の注記]記[#「記」に傍点]を読みつゞける。――

 八月一日[#「八月一日」に二重傍線] 雨――曇――晴。

朝のうちは時化模様で、風雨が強くなりさうだつたが、だん/\おさまつて、おだやかな晴天になつた。
つゝましく、今日も歳事記を読みつゞけた。
早寝する。

 八月二日[#「八月二日」に二重傍線] 晴――曇。

絶食、身心を清掃しよう[#「身心を清掃しよう」に傍点]!
思ひがけなく、Kからうれしい手紙、といふよりもありがたい手紙が来た、あゝKよ、Kよ、私は、私は。……
樹明君酔つぱらつてころげこんだ、寝せてをいて、街へ出かける、買物いろ/\、何よりも、米と酒!
樹明君と同道して暮羊居まで。
私は旅へ。――
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八月三日┐
    ├旅日記
〃 八日┘
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底本:「山頭火全集 第八巻」春陽堂書店
   1987(昭和62)年7月25日第1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※複数行にかかる中括弧には、けい線素片をあてました。
入力:小林繁雄
校正:仙酔ゑびす
2010年4月22日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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