あつた、Mのおかみさんとその娘、何もないからコーヒーを少しあげた!
涼しすぎる風、蒲団なしでは寝てゐられなかつた。
七月廿五日[#「七月廿五日」に二重傍線] 晴。
早起、焼香、肌寒。――
節食、それは絶食の前提となるだらう。
老鶯啼く、ゆつくりしんみりコーヒーを味ふ。
所在なさにあちらへいつたりこちらへきたり、そこらをあるきまはる。……
雪国[#「雪国」に傍点]を読む、寂しい小説だ、康成百パアの小説だ、人生は一切徒労か、情熱いたづらに燃えて、燃えつくすのか!
よい日であつた、よい風が吹いた、よい人生であれ。
午後、暮羊君来庵、読書、昼寝、談笑。……
身心が何となくだるい、風に労れたのでもあらうか。
Yさんの戦死は私を悲しがらせて、――どうにもならない。
七月廿六日[#「七月廿六日」に二重傍線] 晴――曇。
好晴がつゞいたが曇となつた、どうやら雨が近いらしい、物みな待ちかまへてゐる。
待つともなく待つもの[#「待つともなく待つもの」に傍点]、――来なかつた。
絶食[#「絶食」に傍点]、食べるものがないから食べないのだが、身心清掃[#「身心清掃」に傍点]の工作としてよろしい。
落ちついて読書。――
七月廿七日[#「七月廿七日」に二重傍線] 曇――晴。
未明起床、明けゆく情調を味ふ、よいかな、夏の朝。
絶食第二日、梅茶一杯、身心安静。
散歩、五日ぶりの外出である、一杯借りた機嫌で、米も石油も借りて帰つた!
飯のありがたさ、あたゝかい麦飯のうまさ。
九江陥落! ああとさけぶほかない、この感嘆詞には千万無量のおもひがこもつてゐる。
まことに盛夏酷暑だ。
夕立が来てくれさうな雷鳴だつたが、ばら/\雨で終つた、一雨ざつと来ると、人間よりも草木がよろこぶだらうに。
暮羊君の奥さんからカマス二尾頂戴する、憾むらくは酒がないと嘆じてゐるところへ、暮羊君が一本さげて来庵、ほんたうにうまい酒であり、そしてよい酒[#「よい酒」に傍点]であつた。
おかげで、前後不覚、ぐつすり睡れた。
七月廿八日[#「七月廿八日」に二重傍線] 晴。
ようねむれた朝のこゝろたのしく。
浅草紅団[#「浅草紅団」に傍点]、なか/\おもしろい。
何となくいら/\して落ちつけない、どうしたのだらう、気まぐれ山頭火[#「気まぐれ山頭火」に傍点]!
今日もずゐぶん暑かつた、我がまゝ気まゝに暮らした、感
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