なつたので、すまないが、中原君の蚊帳の中に入れて貰つた。
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□老人対話(湯田浴場にて)
□座席を譲られて(バスの中で)
□ステツキから杖[#「ステツキから杖」に傍点]に
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七月十七日[#「七月十七日」に二重傍線] 快晴、真夏。
早々眼覚めたけれど、朝寝の癖があるらしいから遠慮して九時過ぎ起きた、すぐ温泉へ出かけて一浴、そして一杯、朝飯を頂戴してお暇乞する、二人はさらに椹野川で泳いだ、河原の石ころがそれ/″\のよさを具へてゐる事実に今更のやうに驚嘆したりした。
明日の来庵を約して、一時半の汽車で帰庵。
留守に福富さん来訪、すまなかつた、外に誰だか友達もやつて来たらしい。
七月十八日[#「七月十八日」に二重傍線] 晴。
朝早く身もかろく心もすが/\しく。
句稿など整理しつゝ待つてゐる。――
正午すぎ中原君来庵、焼酎を奢つて貰つて飲みかはす、どちらも酔うてしまつて、湯田へ出かける、それはやつぱり酔興だつた、酔中はなれ/″\になつて、そここゝさまようたが、やうやく夜が明けて歩いて戻つた。……
自制、自制、今の私に缺げてゐるものは、無くてならないものは自制である、自制せよ[#「自制せよ」に傍点]、自制せよ[#「自制せよ」に傍点]。
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┌自我本位説
└生命〃〃
新らしい生命観[#「新らしい生命観」に傍点]
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七月十九日[#「七月十九日」に二重傍線] 晴。
暑かつた、――まつたく真夏の天地になつた。
茫々たり、漠々たり、混沌として何物もなし、しかも堪へがたく憂愁たゞよふ。……
夜、中原君来訪、同君のよさが事毎にあらはれて、ます/\好きになる、私を心配してくれる心持がたまらなくうれしい、酔態の見苦しかつたことを聞かされたが、大した醜態は演じなかつたらしい、日頃の狂態までには到らなかつたことを知つて、ほつとした。
蚊帳の中でランプも点けないで、十一時まで話し合つた。
かねて読みたいと思つてゐた雪国と浅草紅団とを持つて来て下さつた、ありがたし/\。
労れて安心して安眠した、めでたし/\。
今日はまたアメリカの大月さんからコーヒーを頂戴した、ありがたう/\/\。
七月廿日[#「七月廿日」に二重傍線] 晴。
申分のない土用入。
快眠した朝の心、落ちついて読書。
みん/\蝉
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