て行きませう。……

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    万葉集より
 ○かくばかり恋ひつつあらずば高山の磐根しまきて死なましものを   磐姫皇后
 ○吾はもや安見児得たり皆人の得がてにすとふ安見児得たり      藤原鎌足
 ○足引の山のしづくに妹まつと吾たちぬれぬ山のしづくに       大津皇子
 ○淡海の海夕波千鳥汝が鳴けばこころもしぬに古へおもほゆ      柿本人麿
・○家にあれば笥にもるいひを草枕旅にしあれば椎の葉にもる      有馬皇子

・○鴨山の磐根しまける吾をかも知らにと妹は待ちつつあらむ      柿本人麿
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(石見高角、美濃郡海岸)
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 ○憶良らは今はまからむ子泣くらむ其彼母も吾をまつらむ       山上憶良
 ○昔こそよそにも見しかわぎも子がおくつきと思へばはしき佐保山   大伴家持
 ○神風の伊勢の浜萩折りふせて旅寝やすらむあらき浜辺に       碁提磯妻
 ○わが背子は物な思ひそ事あらば火にも水にもわれなけなくに     安倍女郎
 ○千鳥なく佐保の河瀬のさざれ波やむ時もなし吾が恋ふらくは     大伴坂上女郎
┌○あしびきの山の雫に妹待つと吾立ち濡れぬ山の雫に         大津皇子
└○吾を待つと君が濡れけむあしびきの山の雫にならましものを     石川郎女
 ○健ら男や片恋せむと歎けども醜の健ら男なほ恋ひにけり       舎人皇子
 ○小竹《サヽ》の葉はみ山もさやにさやげどもわれは妹思ふ別れ来ぬれば    柿本人麿
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 二月八日[#「二月八日」に二重傍線] 曇、小雪。

いちめんのわすれ雪、思ひ出したやうに降る。
生活力[#「生活力」に傍点]のはかないのに自分ながら呆れる。
机上の梅がやうやく開かうとしてゐる。
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讃酒歌    以白酒為賢者 以清酒為聖人[#「聖人」に傍点]
大伴旅人(万葉集)
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 しるしなき物を思はずは一|杯《ツキ》のにごれる酒を飲むべく有らし
 賢こみて物いふよりは酒のみて酔泣するしまさりて有らし
 言はむすべせむすべ知らに極まりて貴きものは酒にし有るらし
 なかなかに人とあらずば酒壺になりてしがも酒にしみなむ
 あなみにくさかしらをすと酒のまぬ人をよく見れば猿にかも似む
 もだをりて賢し
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