い足どりで精進しよう。
防火デーといふので、サイレン、鐘声、消防隊の活動がこゝまでもよく解る。
だいたい、このごろは何々デー何々週間が多すぎる、多ぎ[#「多ぎ」に「マヽ」の注記]たるは及ばざるにしかず、誰もが食傷してゐるやうである!
冬ごもり[#「冬ごもり」に傍点]、ことしはつゝましく私らしい冬ごもりをしたい、今日まづ炬燵の用意をした(今年はとても暖かくて、当分炬燵に用もないらしいが)。
おとなしく読書して今日一日を生きた。
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今日一日の生活[#「今日一日の生活」に傍点]――
それが私の生活の一切だ。
昨日を忘れ[#「昨日を忘れ」に傍点]、明日を考へない[#「明日を考へない」に傍点]。
私の生き方は正常でないかも知れない、だが、私には私の生き方として、かういふ生き方が最も自然[#「自然」に傍点]であり正当である。
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十二月二日[#「十二月二日」に二重傍線] けふも時雨。
早朝、樹明君がやつて来て(多分、よくない朝帰りだらう!)、一寝入して、お茶を飲んで、そしてそのまゝ出勤(感心々々)。
呂竹さんの奥さんが逝かれたさうな、お気の毒だ、さつそくお悔に行き会葬しなければならないのだけれど、それが出来ないので、仏壇に香を※[#「火+(麈−鹿)」、第3水準1−87−40]きお経をあげて、ひとりひそかに冥福を祈つた。
昨日も今日も郵便が来ないが、私はぢつと待つてゐる、それだけ私も落ちついて来たのだらう。
身辺整理、整理しても整理しきれないものがある。
頭痛が堪へがたいので臥床、どうやら風邪をひいたらしい。
知足安分[#「知足安分」に傍点]、――これが私の生活信条である。
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年はとつても年寄にはなりたくない[#「年はとつても年寄にはなりたくない」に傍点]、――誰でもがかう望むだらう。
年寄になつてはもう駄目だ。
情熱のないところに創作はない[#「情熱のないところに創作はない」に傍点]。
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十二月三日[#「十二月三日」に二重傍線] 時雨。
第五十五回の誕生日!
郵便は来たけれど、期待する手紙は来なかつた。
新聞を読み/\、新聞は有難いと思ふ。
寒波が襲来したさうだが、寒い/\。
終日無言、酒はないけれど米はまだあるので、落ちついて読書した。
夕方、一杯やりたくなつたが、ぢつとこらへて早寝した。
さびしい一日、さびしすぎる誕生日であつた。
十二月四日[#「十二月四日」に二重傍線] 曇、時雨。
身心安静。――
ポストへ出かける、W店で酒三合借りる、ほうれん草二把四銭、なでしこ四銭、木綿針五本で一銭!
ほうれん草はおいしい、酒はさほどうまくない(四日ぶりの酒なのに)。
酒がうまくなくなることは――酒で無理をしなくなることは、私の苦悩[#「苦悩」に傍点]がなくなることであるが、それは同時に私の悦楽[#「悦楽」に傍点]がなくなることでもある。
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┌精神乖離症《シツオイド》
└精神分裂症
┌今日一日の命
│大死一番絶後蘇生
└死而後已
┌剣道四病
│ 驚、恐、疑、惑
└剣道四綱
一眼二足三膽四力
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十二月五日[#「十二月五日」に二重傍線] 初雪、晴。
朝早く雪が積んでゐる、降ってゐる、雪のうつくしさ。
雪見酒[#「雪見酒」に傍点]! わるくないな、誰か一樽さげて来ないかな。……
それどころぢやない、米が一粒もないではないか、……よしよし、絶食[#「絶食」に傍点]もよからう! 食べすぎ飲みすぎのわだかまりが清掃されるだらう!
雪がふるふる、支那遠征の将士を思ふ、合掌。
郵便屋さん、御苦労、新聞屋さん、御苦労。
あらゆるものに対して感激と感謝を覚える日である[#「あらゆるものに対して感激と感謝を覚える日である」に傍点]。
ポストまで、すぐ戻つた、善哉々々。
雪を眺めつゝ、行乞時代を追想しないではゐられなかつた。
寒い寒い、冬もいよ/\本調子になつた。
初炬燵[#「初炬燵」に傍点]、かうしてぬく/\と寝てゐられることは何といふ幸福であらう、有難いよりも勿躰ない。
寝苦しかつた、なか/\睡れなかつた(空腹の故でもある!)、長い夜が一層長かつた、私は熱心に軍歌の語句を考へつゞけた。……
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金がありがたいのではない[#「金がありがたいのではない」に傍点]、金をありがたがるのではない[#「金をありがたがるのではない」に傍点]、物が[#「物が」に傍点]、物そのものがありがたいのだ[#「物そのものがありがたいのだ」に傍点]、物を造つた者をありがたがるのだ[#「物を造つた者をありがたがるのだ」に傍点]。
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十二月六日[#「十二月六日」に二重傍線] 曇。
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