らが私に愛想をつかすのもあたりまへだ、が、それにしても私はあきらめきれない、私はまたと得がたい尊い心友のどちらをも失ふたのだらうか、私はやるせない悔恨に責められてゐる。……
暮れて風が吹きだした、月はかう/\とかゞやいてゐる、何だか寂しくてやりきれないので、或る人へ手土産のつもりで買つて置いた外郎を食べる、なつかしい味だ。
眠れない、眠りきれない。――
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上手下手の境[#「上手下手の境」に傍点]を早く通りぬけたい。
よいとかわるいとかいふ批評を許さない境地に到達したい。
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 十一月十九日[#「十一月十九日」に二重傍線] 曇。

寒うなつた、冬らしく風が吹く。
沈欝、時として、天地に向つて慟哭したいやうな気持におそはれる、それは持病ともいふべきオイボレセンチではない。
私は隠遁生活[#「隠遁生活」に傍点]にはいらう(今までもさうでないことはなかつたけれど)、そして孤独に徹しなければならない[#「孤独に徹しなければならない」に傍点]、それが私の運命だ。
今夜はいつもよりよく眠れた。
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自律心[#「自律心」に傍点]をなくしてしまふ自分を悲しむ。
自律力[#「自律力」に傍点]のない自分を鞭打つ。
アルコールのない生活。
悔のない生活[#「悔のない生活」に傍点]。

自他を欺くなかれ。
自分に佞り他人に甘えるなかれ。
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 十一月廿日[#「十一月廿日」に二重傍線] 晴。

空も私もしぐれる。――
茶の実を採る、アメリカの友に贈るべく。
――私は躓いた、傷いた、そして、しかも、新らしい歩み[#「新らしい歩み」に傍点]を踏み出したのである(その歩みが溌剌颯爽たるものでないことはあたりまへだ)。――
読書、私には読書が何よりもうれしくよろしい、趣味としても、また教養としても、私は読書におちつかう[#「私は読書におちつかう」に傍点]。
信濃の松郎君から頂戴した蕎麦粉を掻いて味ふ、信濃の風物がほうふつとしてうかんでくる。
午後、ポストまで散歩、このごろの散歩は楽しい。
寝苦しかつた。
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   自問自答(一)
     ――自殺について――
死ねるか。
死ねる。
いつでも死ねるか。
いつでも。――
死にたいか。
死にたいといふよりも生きてゐたくないと思ふ。
どうして?
性格
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