、手土産としてラツカース二罎借りる。……
寂しい悲しい訪問だつた。
泊る、東京から小さいお客さんが数人来てゐてうるさかつた。
酒はうまかつた。

 八月四日[#「八月四日」に二重傍線] 晴。

朝早く防府へ。――
佐波川で泳ぐ。
M君を訪ねる。
午後、徳山へ。――
途中、富海に下車して、追憶をあらたにした。
酔うてゐる間だけ楽しい。
白船君を訪ふ、忙しいので宿屋に泊めて貰ふ、たゞ/\酔うてゐる間だけが楽しい。

 八月五日[#「八月五日」に二重傍線] 晴。

午近くなつて帰途につく。
再び富海に下車して海に浸る。
白船君は落ちついてゐる、漣月君は元気いつぱいだ、さて私は。――
三田尻駅で、東路君に逢ふ、飲む、酔ふ、泊る。

 八月六日[#「八月六日」に二重傍線] 晴。

東路君来訪、朝から飲む、そして酔ふ。
夕方の汽車で帰庵。

 八月七日[#「八月七日」に二重傍線] 晴。

終日臥床、沈欝たへがたし。

 八月八日[#「八月八日」に二重傍線] 晴、立秋。

身心不安、たへきれなくなつて街へ、酔ひつぶれた。

 八月九日[#「八月九日」に二重傍線] 晴。

茫々として。――

 八月十日[#「八月十日」に二重傍線] 晴。

おなじく。

 八月十一日[#「八月十一日」に二重傍線] 晴。

暑い/\。
街の米屋へ出かける、死なゝいかぎりは食べなければならない。
途上で暮羊君に出くわす、午後、同君がビールやら何やら持ちこんで来て、IさんJさんもやつて来て、愉快に飲む語る。
がちや/\が鳴き初めた。

 八月十二日[#「八月十二日」に二重傍線] 晴。

だいぶ落ちついた、身のまはりをかたづける。
夜、Nさん来庵。
生死に迷ふ。――

 八月十三日[#「八月十三日」に二重傍線] 晴。

空々寂々。

 八月十四日[#「八月十四日」に二重傍線] 晴。

捨身、一切を捨てろ、捨身には生も死もない[#「捨身には生も死もない」に傍点]。
――日暮而道遠、吾生既蹉※[#「足へん+它」、第3水準1−92−33]、――放逸無慚の過去がひし/\と迫る、ああ。
欝々として今日も過ぎ去るか。
マツチがなくなつたので――マツチのありがたさを今更のやうに感じる、――四日ぶりに街へ出かけた、S屋で一杯ひつかけたが、うまくなかつた、うまくない筈だ。
最後のもの[#「最後のもの」に傍点]がやつてくる。…
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