柿を食べて、どうやらさつぱりした、――これが本当ならありがたいうれしいと思ふ、同時にさびしくもかなしくも思ふ。
私は酒を飲む時はいつも一生懸命だつた、いのちがけで[#「いのちがけで」に傍点]飲んで飲んで飲みつぶれてゐたのである!
夜はのんきに古雑誌(それも主婦の友だ!)を読んでゐたが、どうしても睡れない、明方近くとろ/\としたが、すぐ覚めて起きた、不眠はたしかに罰だ[#「不眠はたしかに罰だ」に傍点]! なまけものにうちおろされる鞭だ!
十月十七日[#「十月十七日」に二重傍線] 曇。
しづかなるかな。……
稲扱機のひゞきがなつかしくきこえる。
風、秋風だ、木の葉がちる。
秋寒、何となくうすら寒い。
炭屋まで出かける、火鉢がこひしうなつたのだ、火鉢に手をかざしてゐないとおちつきがわるい。
今夜はともかく眠れた、夢は多かつたが。
十月十八日[#「十月十八日」に二重傍線] 晴、満月。
寒い、冷たい、冬が近いことを思はせる、今朝から火鉢に火をいける。
最近二ヶ月間の変化を考へると、私はしゆくぜんとする、自然も私もすつかり変化した。
うれしいたよりいろ/\、ことにアメリカからのそれはうれしかつた。
さつそく街へ出かけて買物をする、ありがたかつた。
久しぶりに独酌を味ふ、うまい、うまい。
暮れてから学校に樹明君を訪ねる(酒と焼茸とを携へて)、いつしよに散歩する、ほどよく酔うて、労れたのでI屋に泊る、よかつた、よかつた。
十月十九日[#「十月十九日」に二重傍線] 秋空一碧。
早朝、同道して帰庵、酒もあり汁もあり飯もあつて幸福だつた。
何だか、忘れてしまつたやうな気がする、何もかもみんな忘れてしまへ!
山口へ行く、湯田で一浴、そして一杯、もつたいないことだ、私は「天下の楽人《ラクジン》」であらうか!
おとなしく戻つて、月を観て、しんみり睡つた。
方々へ手紙を書く。――
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私はこのごろ落ちついてはゐますが、もつと山ふかい里にひつこまなければ、しんじつ落ちつけないやうに思ひます、……どうなる私か、……老来いよ/\恥多く惑ひ多し[#「老来いよ/\恥多く惑ひ多し」に傍点]、です。……
[#ここで字下げ終わり]
十月廿日[#「十月廿日」に二重傍線] 晴。
今朝も早くから、出征を見送る声が聞える、私はその声に聞き入りつゝ、ほんたうにすまない[#「ほん
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