い秋日和。
終日身辺整理、だん/\落ちついてきた。
私の好きな茶の花が咲きだした。
秋風の裏藪がざわめく。
今夜も眠れない。――
十月十一日[#「十月十一日」に二重傍線] 晴。
秋暑し、おちついて読む。
熟柿がうまい、山の鴉もやつてきて食べる。
午後、ポストまで出かける、W屋で一杯。
道べりの蓼紅葉がうつくしい。
神保さんの妻君が子供を連れて柿もぎに来た、今年はだいぶなることはなつたけれど大方は落ちた、それでも籠にいつぱい百ぢかくあつたらう。
今夜は幸にして眠れた。
不眠は我儘な不幸である。
十月十二日[#「十月十二日」に二重傍線] 雨、後晴。
ひとりしんみりと籠つてゐた。
整理しても、整理しても、整理しきれないものがある、それが私のなげきなやみ[#「私のなげきなやみ」に傍点]となるのだ、整理せよ、整理せよ。
――無くなつた、何もかも無くなつた、銭はもとより、米も醤油も、マツチまでも無くなつてしまつた。
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私にあつては、酒は好き嫌ひの問題ではない、その有無が生死となるのである。
私が酒をやめようやめようと努めながらもやめることが出来ないのは、必ずしも私の薄志弱行ばかりではない。
酒は仏か鬼か。
とにかく私は酒と心中するのだ!
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十月十三日[#「十月十三日」に二重傍線] 曇。
早起、朝寒、火が恋しくなつた。
樹明君を訪ねる、新聞を読ませて貰ふ。
今日から国民総動員週間。
午後、街へ出かける、I店で米を借りる、Y屋で飲む(久しぶりの山頭火的飲ツ振だつた)。
夜は句集発送をかたづける、何でもないことだけれど、整理のあとのこゝろよさ。
今夜はほどよう睡れさうなのに、なか/\睡れなかつた。
事変句数首をまとめた。
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今日の買物
一金六銭 菜葉二把
一金六十五銭 切手端書
一金十五銭 石油三合
一金五銭 線香
一金三十弐銭 なでしこ
一金九銭 味噌
一金十七銭 煮干
一金八銭 大根
(大根一本七[#「七」に「マヽ」の注記]銭とは高いぞ)
[#ここで字下げ終わり]
十月十四日[#「十月十四日」に二重傍線] 秋晴。
身心沈静。
今日は小学校の運動会、子供も親達もうれしさうにお辨当を持つて行く、日本晴で何よりだ、私までうれしい気分になる、まことに楽しい行[#「行」
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