何のおかまひも出来なかつた、ほんたうにすまなかつた、いろいろお世話になつた、ありがたかつた。
今日も徒然草鑑賞、うまい、おもしろい。
後藤さんから句集代の前金を貰つたので、街へ出かける。
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醤油四合――十六銭
焼酎一合――十二銭
豆腐二丁――六銭
ハガキ十枚――二十銭
その他――
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感謝々々、湯田温泉へ行きたいな(昨夜、ちよつと一ヶ月ぶりで行つたことは行つたけれど)。
うたゝ寝から覚めると、どこかでレコードがうたつてゐる、何といふあはれつぽい唄だらう、ぢつとして聞いてゐられないので、そこらを歩きまはる、さみしいなあ!
今日は小郡の管絃祭、誰もが仕掛花火見物に出かけるらしい、私はひとり蚊帳の中に寝ころんで、打揚花火を見たり月を眺めたりした。……
蒸暑い晩だつたが、ぐつすりと寝た。
七月廿五日[#「七月廿五日」に二重傍線] 曇。
雨風となつた。――
Kから来信、ポストへ出かける。
街で、払へるだけ払ひ、買へるだけ買つた、そして飲めるだけ飲んだ!(といつたところで、解つたものだ、コツプ酒の十杯も飲んだらうか)
湯田へ、――たうとう散歩がそこまで延びた、いつものS屋に泊つた。
そこで、不愉快な事件にぶつかつた、私は酔うてゐたけれど、ぐつとこらへた、人間はあさましいものだと思つた、彼も私も誰も。
七月廿六日[#「七月廿六日」に二重傍線] 雨――曇。
酒でごまかして一日をすごした。
酔うて戻つた。……
七月廿七日[#「七月廿七日」に二重傍線] 降つたり、曇つたり。
身心不調、身動きも出来ないほど疲労してゐる。
七月廿八日[#「七月廿八日」に二重傍線] 雨――曇。
すべて隠遁的[#「隠遁的」に白三角傍点]に。――
孤独と沈黙との生活にかへれ[#「孤独と沈黙との生活にかへれ」に傍点]。
七月廿九日[#「七月廿九日」に二重傍線] 曇。
沈欝たへがたし。
四日ぶりに出かける、そしてW屋で一杯ひつかける。
北支の風雲がたうとう爆発した、悲痛であるが、詮方のない事実である。
現実的現実に直面せよ[#「現実的現実に直面せよ」に傍点]。
七月三十日[#「七月三十日」に二重傍線] 雨。
毎日毎夜、万歳々々の声がきこえる、出征将士を見送る声である、その声が私の身心にしみとほる。
夕方、あまりさびしいので、暮羊君を訪ねる、ビールと水密[#「密」に「マヽ」の注記]桃の御馳走になる、感謝々々、おかげで、よい睡眠をめぐまれた。
七月三十一日[#「七月三十一日」に二重傍線] 晴。
どうやら晴れさうな、人も樹木もよろこびうごく。
貧乏はつらいかな、銭がないために、人間はどんなに悩み苦しむことか。――
この寂しさはどうしたのだらう!
塩と胡瓜とを味ふ、塩はありがたい、それをこしらへてくれる人に感謝する、胡瓜はうまい、それを惜しみなくめぐんでくれる自然に感謝する。
モウパツサン短篇集を読む、モウパツサンはわるくないと思ふ、チヱーホフほど親しくは感じないけれど。
先月はあれほど緊縮して暮らした、今月もこれほどつましく生活費を切り詰めた、しかし赤字つゞきである(もつともちよい/\一杯ひつかけるから、それが浪費といへばいへるけれど、私にあつては、酒は米につぐ生活必需品である!)。
かうして生きてゐてどうなるのか、どうすればよいのか、今更のやうに、自分の無能無力が悲しかつた[#「自分の無能無力が悲しかつた」に傍点]、腹立たしい。
乞食になりきれない弱さ、働いて食べる意力のないみじめさ。
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改めて書き遺すこと
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丈草
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性くるしみ学ぶ事を好まず、感ありて吟じ[#「感ありて吟じ」に傍点]、
人ありて談じ、常はこの事打わすれたる如し。
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(去来、丈草誄)
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春雨やぬけ出た儘の夜着の穴
大原や蝶の出て舞ふ朧月
鶯や茶の木畠の朝月夜
白雨に走り下るや竹の蟻
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時鳥啼くや湖水のささ濁り
行秋や梢にかかる鉋屑
・蜻蛉の来ては蠅とる笠の中(旅中)
・虫の音の中に咳き出す寝覚かな
幾人か時雨かけぬく瀬田の橋
ほこ/\と朝日さしこむ火燵かな
水底の岩に落つく木の葉かな
・物かけて寝よとや裾のきり/″\す
連のある処へ掃くぞ蟋蟀
・淋しさの底ぬけて降る霙哉
交は紙衣のきれを譲りけり(貧交)
はせを翁の病床に侍りて
うづくまる薬の下の寒さかな
・朝霜や茶湯の後のくすり鍋(無名庵)
宗長、三井寺にて
夕月夜うみ少しある木の間かな
俳諧勧進帳 奉加乞食路通
いね/\と人にいはれつ年の暮
草臥て烏行くなり雪ぐもり
草枕虻を押へて寝覚めけり
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