した。

 七月十四日[#「七月十四日」に二重傍線] 曇、時々降る。

何よりも早く起きた、そして。――
朝は正法眼蔵拝読。
さびしいな、こらへきれないで出かける、Mで酒を、Kで煙草を借りて戻る、ありがたい。
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言はむすべ為むすべ知らに極りて貴きものは酒にし有るらし(大伴旅人)
[#ここで字下げ終わり]
今日、読んだものの中で、この歌に心をひかれた。
初めてうちの胡瓜[#「うちの胡瓜」に傍点]を食べる、うまかつた、うれしかつた。
先日から塩飯[#「塩飯」に傍点]を食べつゞけてゐるので(時々般若湯を飲むけれど)、身清浄心寂静[#「身清浄心寂静」に傍点]を感じる。
北支の形勢はいよ/\切迫した、それは日本人として大陸進出の一動向である、日本の必然[#「日本の必然」に傍点]だ、それに対して抵抗邀撃するのは支那の必然[#「支那の必然」に傍点]だ、ここに必然と必然との闘争[#「ここに必然と必然との闘争」に傍点]が展開される、勝つても負けてもまた必然当然であれ。
夕方、Iさん来庵、四方山話をする。
草刈さんに家のまはりの草――通行を妨げる――その草を刈つて貰ふ。
夜は寒山詩を読む、彼の信念はよく解る、共鳴するけれど、彼の独善的態度[#「独善的態度」に傍点]には賛じがたい、私は彼の詩のやうな句は作りたくない。
今夜も寝苦しかつた、老情でもあらう!

 七月十五日[#「七月十五日」に二重傍線] 雨、曇、晴。

暗いうちに起きて、何やかやしてゐるうちにやうやく明るくなつた。――
たうとう塩もなくなつた[#「塩もなくなつた」に傍点]! まさに今年無錐其地だ!
藪蚊には困る、私一人にあつまつて私を落ちつかせない、あゝ藪蚊藪蚊、藪蚊をキズにして何両!
午後、湯屋へ、そこでしばらくの生をたのしむ。
敬君来庵、樹明君徃訪、……酒、酒、酒、……それから、それから、それからだつた、――それで、よろしい、よろしい、よろしい。
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空観――
実相無相、生死去来真実相。
[#ここで字下げ終わり]

 七月十六日[#「七月十六日」に二重傍線] 曇。

早起、けさはにぎやかだ、樹明君敬君が泊つてゐる、飲みつかれ歩きつかれて死んだやうに寝てゐる。
樹明君は早朝出勤、敬君はゆつくりして帰宅。
私は街へ、一杯また一杯ひつかける。
理髪入浴、みんなマイナスだ。
どうも飲み足
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