て狼だ。
……………………

 四月七日[#「四月七日」に二重傍線]、八日[#「八日」に二重傍線]

身心バラ/\だ、夢とも現とも何ともいへない気分だ。

 四月九日[#「四月九日」に二重傍線] 晴。

親しい友の手紙に鞭うたれて、湯田まで散歩。
一浴一杯[#「一浴一杯」に傍点]、身心やゝ安定。
帰来して庵中独坐。

 四月十日[#「四月十日」に二重傍線] 晴。

さくらがちる。
だん/\平静になる。
蕗の香、若布の香、御馳走々々々。

 四月十一日[#「四月十一日」に二重傍線] 晴。

山はドンチヤン、花見のまつ盛り。
私はぢつとして寝てゐるより外はない。
夕方散歩、よかつた、よかつた。

 四月十二日[#「四月十二日」に二重傍線] 晴。

いよ/\落ちついた、合掌。
春蝉の声を聞いた。
鴉がうたれて死んだ、むしろ私を殺してくれるとよいのに!
他人に頼るなかれ、自分を信ぜよ。
せめて晩年だけなりとも人並に生きたい。
ほんたうの句を作れ[#「ほんたうの句を作れ」に傍点]、山頭火の句を作れ[#「山頭火の句を作れ」に傍点]。
人間の真実をぶちまけて人間を詠へ[#「人間の真実をぶちまけて人間を詠へ」に傍点]、山頭火を詠へ[#「山頭火を詠へ」に傍点]。
[#ここから1字下げ]
心を広く強く[#「心を広く強く」に傍点]、高く[#「高く」に傍点]。
横に広く[#「横に広く」に傍点]――ではない。
縦に深く[#「縦に深く」に傍点]――である。
私の場合では。――
[#ここで字下げ終わり]

 四月十三日[#「四月十三日」に二重傍線] 晴――曇。

身心いよ/\安静、やうやく自分をとりもどした。
絶対禁酒はとうてい出来さうにもないが、節酒はどうやら出来さうである。
酒を味へ[#「酒を味へ」に傍点]、酒に敗けるな[#「酒に敗けるな」に傍点]。
克己[#「克己」に傍点]、克己[#「克己」に傍点]、克己[#「克己」に傍点]、克己が一切だ[#「克己が一切だ」に傍点]。
慊らない、何もかも――私自身に対して、そして句作の場合は殊に。――
風、風、風だつた、日中吹き通して、夜中も吹きつゞけた。
屋根の一部が吹きとばされる。
桜も散つてしまつたらう。
まことに花時風雨多である。
風の中の散歩も一興だつた、山はいつもうれしいものである。
寝苦しかつた。……
[#ここから1字下げ]
貪らず、惴[#「
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