愚痴ともいへる。
□空洞から生れる句[#「空洞から生れる句」に傍点]、それは水のやうな、或は風のやうな句。
□一時の睡眠から永遠の睡眠[#「永遠の睡眠」に傍点]へ――やつぱり催眠剤がよい、――酒を腹いつぱい飲んで、それから寝床に横はつて。――
□母の死……弟の死……祖母の死……父の死……さて、次の番は……どうやら順番が来たやうだ、いや、順番にしなければならないやうだ。……
□米櫃に米がある、酒徳利に酒があることは何といふ幸福だろう、反古籠に反古があることさへも。
□over value よりも under value
□酔ふ、遊ぶ、そして滅ぶ。……
[#ここで字下げ終わり]
二月七日[#「二月七日」に二重傍線] 曇。
暖かい雨、もう春が来たやうな。――
新聞を読んで、朝飯をよばれて、おとなしく帰庵。
ルナアル日記を読みつゞける、ゆつくりと落ちついて。
どこかで仔犬が鳴きわめく、と仔犬のいぢらしい姿態が眼前にうかびあがる。……
彼には盗癖があるらしい(N屋の店員)、すつかり嫌になる、彼の何でもない一挙動が私をこんなにも憂欝にする。……
樹明君来庵、酒を持つて――飲んで話してゐるところへ、Sさん来庵、酒と下物とを持つて――酔ふ、私は酔うて睡つてしまつた。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
□遊蕩のための遊蕩のよろしさ!
□私には好悪はあるが美醜はない、浄穢不二にはなりきれないけれど愛憎はあつさりしてゐる。
□感傷は反芻する[#「感傷は反芻する」に傍点]。
孤独は散歩する。
憂欝は中毒する[#「憂欝は中毒する」に傍点]。
□空は風ふく。
私は咳する。
[#ここで字下げ終わり]
二月八日[#「二月八日」に二重傍線] 晴。
風、風、風はほんたうにさみしい[#「風はほんたうにさみしい」に傍点]!
昨夜の余得として、酒がある、カマボコがある、バツトがある、――ありがたく頂戴して今日の憂欝[#「今日の憂欝」に傍点]を消散せしめる。――
あるだけ飲んで食べて、そして寝る、としよりの、独りぼつちの怠けものの気楽さだ。
終日、風を聴く。――
何でもない事、その事が身心にこびりついて離れない不快、風が屋根の藁を吹き散らして貧乏な私を悩ます。……
私はリヨウマチのおかげで、おとなしく閉ぢ籠つてゐます、――といふやうな消息の文句はあまりおもしろくない。
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