ねる、ビールと水密[#「密」に「マヽ」の注記]桃の御馳走になる、感謝々々、おかげで、よい睡眠をめぐまれた。
七月三十一日[#「七月三十一日」に二重傍線] 晴。
どうやら晴れさうな、人も樹木もよろこびうごく。
貧乏はつらいかな、銭がないために、人間はどんなに悩み苦しむことか。――
この寂しさはどうしたのだらう!
塩と胡瓜とを味ふ、塩はありがたい、それをこしらへてくれる人に感謝する、胡瓜はうまい、それを惜しみなくめぐんでくれる自然に感謝する。
モウパツサン短篇集を読む、モウパツサンはわるくないと思ふ、チヱーホフほど親しくは感じないけれど。
先月はあれほど緊縮して暮らした、今月もこれほどつましく生活費を切り詰めた、しかし赤字つゞきである(もつともちよい/\一杯ひつかけるから、それが浪費といへばいへるけれど、私にあつては、酒は米につぐ生活必需品である!)。
かうして生きてゐてどうなるのか、どうすればよいのか、今更のやうに、自分の無能無力が悲しかつた[#「自分の無能無力が悲しかつた」に傍点]、腹立たしい。
乞食になりきれない弱さ、働いて食べる意力のないみじめさ。
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改めて書き遺すこと
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丈草
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性くるしみ学ぶ事を好まず、感ありて吟じ[#「感ありて吟じ」に傍点]、
人ありて談じ、常はこの事打わすれたる如し。
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(去来、丈草誄)
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春雨やぬけ出た儘の夜着の穴
大原や蝶の出て舞ふ朧月
鶯や茶の木畠の朝月夜
白雨に走り下るや竹の蟻
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時鳥啼くや湖水のささ濁り
行秋や梢にかかる鉋屑
・蜻蛉の来ては蠅とる笠の中(旅中)
・虫の音の中に咳き出す寝覚かな
幾人か時雨かけぬく瀬田の橋
ほこ/\と朝日さしこむ火燵かな
水底の岩に落つく木の葉かな
・物かけて寝よとや裾のきり/″\す
連のある処へ掃くぞ蟋蟀
・淋しさの底ぬけて降る霙哉
交は紙衣のきれを譲りけり(貧交)
はせを翁の病床に侍りて
うづくまる薬の下の寒さかな
・朝霜や茶湯の後のくすり鍋(無名庵)
宗長、三井寺にて
夕月夜うみ少しある木の間かな
俳諧勧進帳 奉加乞食路通
いね/\と人にいはれつ年の暮
草臥て烏行くなり雪ぐもり
草枕虻を押へて寝覚めけり
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