し、めでたし、めでたし。
Iさんの蚊帳で寝る。
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風狂、風流、風雅。
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 八月九日[#「八月九日」に二重傍線] 雨――曇。

降つた降つた、めづらしいどしやぶりだつた、その中を戻つた、はだしで、濡れるなら濡れて。
内外整理。
Kから送金、心臓がハツとした、おのづから眼が熱くなつた、感謝と懺[#「懺」に「マヽ」の注記]愧とに堪へなかつた。
山口へ行つて買物色々、湯田へまはつて入浴、そして快い酔を持つて帰つた。
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捨身没我の風光。
幸不幸は主観の産物。
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 八月十日[#「八月十日」に二重傍線] 曇。

夕立のこゝろよさ。
ぐつすり寝る。

 八月十一日[#「八月十一日」に二重傍線] 曇、晴、また降りさうな。

米、酒、石油、木炭、醤油、煙草、――Kのおかげで庵中物資豊富である。――
わるい親父によい息子!
歯がぬけた、痛みもとれた。
うれしい晩酌でありました。

 八月十二日[#「八月十二日」に二重傍線] 晴。

朝月のよさ。
虫干、何もかも一切の虫干。
今日も夕立、夏から秋へのうつりかはり。
何となく寝苦しかつた、Kを夢みた、彼が近々結婚するので、その式場の様子をまざ/\と夢に見たのである。
私には何も贐するものがない、ああ。

 八月十三日[#「八月十三日」に二重傍線] 雨、曇。

しづかなるかな。
降る、降る、降る、降る。
私には飛躍[#「飛躍」に傍点]はあつても漸進[#「漸進」に傍点]はありえない。
夜は樹明君が宿直といふ通知があつたので、のこ/\出かけて、とう/\酔うて、こそ/\泊つた。

 八月十四日[#「八月十四日」に二重傍線] 晴。

眼が覚めて見廻すと、学校の宿直室に寝てゐる、樹明君の側に寝てゐる、……朝酒二杯ひつかける、朝飯をよばれて戻る。
ほろよひ人生だ[#「ほろよひ人生だ」に傍点]、へべれけ人生[#「へべれけ人生」に傍点]では困る。
ロンドン日本大使館気付で、斎藤清衛さんへ、私としては長い手紙を書く、斎藤さんは歩く人[#「歩く人」に傍点]だ、ほんたうに歩く人だ、遙かに旅程の平安を祈る、それにしても私は私自身が省みられる、私は歩かなくなつた、遊びまはるやうになつた、私の現在の苦悩はそこから起る。
正午のサイレンを聞いてから、樹明君と約束した通り、釣竿かついで、椹野川の六丁へ出かける、君の姿が見えない、私は釣竿しか持つてゐないから何うすることも出来ない、しばらく待つことにして、水を浴びたり句を拾ふたりする、もう帰らうと思つて土手を歩いてゐると、君が自転車でやつて来た、出水が多くて釣れないといふ、そのまゝ同行して橋袂の店で一休みする、そして別れた、別れる時に君から握飯を貰つた、焼魚も買つてくれた、面白いではないか、魚は釣らないで握飯を釣つたのである、いや、魚も釣つたが焼魚を釣つたのである! 樹明君、ほんたうにありがたう、ありがたう。
土手から摘んできた河原撫子を机上の壺に活ける、この花は見すぼらしいが、日本固有のよさがある、私の好きな花の一つだ。
夕方、日照雨一しきり、今年はとても天候不順で、梅雨季のやうな暑中だ、身のまはり――身そのものが黴だらけになる、まつたくやりきれない。
夜、くつわ虫がちよつと鳴いた。
踊大[#「大」に「マヽ」の注記]皷がをちこちで鳴る、そこのお寺でも早くから鳴つてゐる、見物しようかとも思つたが、年寄のおつくうで、蚊帳の中で聴く、唄声も聞える、更けるにしたがつて音が冴えてくる、踊もはづむらしい。
めづらしく半鐘が鳴りだした、警察のサイレンも、――火事らしいが見えない。
いつとなく眠つてしまつた。

 八月十五日[#「八月十五日」に二重傍線] 晴。

此の地方は昨日今日が盆。
朝焼がうつくしかつた。
身辺整理、毎日少しづつやつてゐるが、なか/\かたづかない。
庵中閑寂、盆のたのしさもわずらはしさもない。
午後、今日も夕立、蒸暑い夕立模様。
駅のポストまで。――
晩酌は焼酎、下物は昨日の焼鯖。

 八月十六日[#「八月十六日」に二重傍線] 晴、……曇、……雨。……

秋を感じる、昨日はつくつくぼうしが最初の声を聞かせた、萩もこま/″\と蕾をつけた。
朝のこゝろよさ、しづかに考へ、書き、読む。
正法眼蔵随聞記拝読。
また雨、ほんたうにやりきれない。
盥に雨を聴く(そこら雨漏る音がたえない)。
心境廓然[#「心境廓然」に傍点](先夜の放下着このかた)。
午後、今日も日課のやうに駅のポストまで。
涼しい夕だ、涼しすぎる、秋が来た、秋が来たのだ、あけはなつて浴衣では肌寒いほどだつた。
今夜も踊大皷が聞える、踊れ踊れ、踊りたいだけ踊れ、踊れるだけ踊れ、踊れ踊れ。
夜は散歩(散歩でもしなければ堪へられなくて)、
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