ゐるうちにだん/\雲が切れて日ざしが洩れてきた、私にはお祭も(盆も正月も)ないけれど。
秋風さらさらさら。
待つ、待つ、待つ、――来ない、来ない、来ない。
うたゝ寝していやな夢を見た、覚めてもしばらくはその情景から離れることが出来なかつた。
夢は正直だ[#「夢は正直だ」に傍点]、意識しない自分[#「意識しない自分」に傍点]をさらけだして見せてくれる、再思三省。
今夜は蚊帳を吊らなかつた、胸が切なく寝苦しい一夜だつた。
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△銭なしデー
いつもさうだ。
△酒なしデー
しば/\ある。
△飯なしデー
とき/″\。
そして最後に
△命なしデー
さよなら!
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九月十七日[#「九月十七日」に二重傍線] 秋晴。
身心すが/\しい、澄んだ自分[#「澄んだ自分」に傍点]が出現する。
身辺整理。
今日も来ない、今日も。――
空腹しみ/″\読書。
ひよろ/\(何しろ昨日の朝食べたきりだから)散歩する、ついでに学校に寄つて新聞を読んでゐたら、ひよつこり樹明君(何といふ幸福、実は遠慮して逢はないでゐたのだ!)、遠慮しないで米を貰ふ、酒と魚とを買つて貰ふ、後から来るといふので、庵中独酌、待つてゐる。
酒はうまいな、飯はうまいな。
三十余時間ぶりに御飯がはいつたので胃がたまげて鳴つてゐる、どうだ、うまからう。
私が――歯のない私が鮹を食べる!
今夜は私も樹明君もおとなしかつた、飲んで食べて、さよなら、万歳!
熟睡だつた、豚のやうに。
一升ぺろり、よい、よい、よいとなあ!
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彼に与へた言葉
私がわるくなれば君もわるくなる。
君がよくなれば私もよくなる。
お互によくならう。
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九月十八日[#「九月十八日」に二重傍線] 晴、満洲事変記念日。
宵寝をしたのであまり早起だつた。
朝空の星のうつくしさ。
身心平静、秋気清澄。
百舌鳥が出て来た。
胃の工合がよろしくない、当然すぎる当然!
昼飯を食べてから、ふと思ひ立つて湯田へ行く、椹野川を土手づたひに溯る、葦の花、瀬の音、こほろぎのうた、お地蔵さま、秋草のいろ/\、……温泉で一浴して引き返す、徃復とも歩いたが(銭がないから)、近来のよい散歩だつた。
温泉はありがたし、酒と飯とがあればいよ/\ありがたし、銭があればます/\ありがたし。
やうやく花茗荷が咲いた。
蚊帳を仕舞ふ、冬物の用意はどうぢや、質受をいそがないと風邪をひくぞ!
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三界万霊
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九月十九日[#「九月十九日」に二重傍線] 曇。
秋風、間違なく秋風。
子規忌、子規逝いて何年、年々鶏頭は赤し。
花めうが[#「花めうが」に傍点]匂ふ、それはあまりに独善的な。
身辺整理、日記も書き改めるし、浴衣も洗濯しました。
茶の木がもうかたいつぼみを持つてゐる。
たよりいろ/\、ありがたし/\。
昼飯をたべてゐるところへNさん来訪、何もないからいつしよに近郊散策、そのまゝ別れた。
二人のなまけもの[#「二人のなまけもの」に傍点]! わるくない題号だね!
今日の散歩はNさんが青唐辛を貰つてくれた、帰庵早々佃煮にしてをく。
左の太腿が痛い(昨日から)、そろ/\ヤキがまはつてもいゝころだ。
かへつてぼんやりしてゐると、樹明君から来信、今日は御案内があるべきだらう、云々、御案内しようにも出来ませんよといふ。
酒屋が酒を持つてくる(樹明君を通してSさんから)、樹明君が下物をぶらさげてくる。
夕焼がうつくしい。
三人で飲む、食べる、しやべる、――そして、それから例によつて例の如し。
ほろ/\ぼろ/\、とろ/\どろ/\、おそくもどることはもどつた、感心々々、感心々々。
九月二十日[#「九月二十日」に二重傍線] 曇。
朝酒がある、あれば飲まずにはゐられない私だ。
やつと来た、それを持つて街へ、昼も夜もなくなつた、彼も私もなくなつた、……一切空々寂々だつた、濡れて戻つて寝た。……
九月二十一日[#「九月二十一日」に二重傍線] 晴。
自責の念にたへなかつた、何といふ弱さだらう、自分が自分を制御することが出来ないとは!
終日憂欝、堪へがたいものがあつた。
九月廿二日[#「九月廿二日」に二重傍線] 秋晴。
朝、眼が覚めるといつも私は思ふ、――まだ生きてゐた[#「まだ生きてゐた」に傍点]、――今朝もさう思つたことである。
山の鴉がやつて来て啼く、私は泣けない。
身心重苦しく、沈欝、堪へがたし。
虚心坦懐[#「虚心坦懐」に傍点]であれ、洒々落々たれ、淡々たれ、悠々たれ。
午後はあんまり気がふさぐので近郊を散歩した、米と油とを買うて戻る。
樹明君は来てゐない、来てくれさうにもない、九、一九の脱線でまた戒厳令
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