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 十一月七日[#「十一月七日」に二重傍線] 八日[#「八日」に二重傍線] 九日[#「九日」に二重傍線] 十日[#「十日」に二重傍線] 十一日[#「十一日」に二重傍線]

ぼう/\たり、ばく/\たり、空々寂々。

 十一月十二日[#「十一月十二日」に二重傍線]

飲まず、食はず、私はぢつと寝てゐた。
夜、樹明君とSさん来訪、酒と牛肉と、そして私の我儘と。――
A君に送らなければならなかつた手紙を送ることが出来たのは、何ともいへない安心だつた、これだけがこの数日間のせめてものなぐさめだつた、それはTさんのおかげだ、そしてやうやく眼鏡を買ふことが出来たのも近来にないよろこびだつた、それもKさんのおかげだ。……
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どうすればよいのか。
どうにもならないではないか。
自我分裂[#「自我分裂」に傍点]といふのか。
自己破壊とでもいふのか。
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 十一月十三日[#「十一月十三日」に二重傍線] 曇。

寝てゐる、覚めると冷酒を呷る、そして寝てゐる。

 十一月十四日[#「十一月十四日」に二重傍線] 晴。

昨日の通りの今日だ。
Nさんが来られて、そつと帰られた(後から書置きを見て知つた)。

 十一月十五日[#「十一月十五日」に二重傍線] 曇。

附近で演習がある、それを観るべく出かけられたらしいKさんNさん来訪。
何もかもなくなつた、水まで涸れてしまつた!
悪夢がはてしもなくつゞく。

 十一月十六日[#「十一月十六日」に二重傍線] 曇。

澄太君には逢へなかつた、とても山口へは出かけられし[#「れし」に「マヽ」の注記]、返事も出せなかつたので留守だと思はれたのだらう、あゝすまないすまない、ほんたうにすまない。
夕ちかく俊和尚は知らせの通り来庵、数日寝たきりの私も誘はれて、駅前の宿まで出かけた、そこでいろ/\御馳走になつた。
秋ふかうして人のなさけのあたたかさ、友の温情が身心にしみこむ、何[#「何」に「マヽ」の注記]は幸福だ、幸福すぎる。
睡れない、睡れないのが本当だ。……
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――とにかく生きてゐたくなくなつた、といふよりも生きてはゐられなくなつた、とすれば、死ぬるより外ない、死んで、これ以上の恥と悩みとから免がれるより外ない。
酒、句、そして何がある、それ以外に。
酒は私を狂はしめ
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