く世の中はうるさい[#「とにかく世の中はうるさい」に傍点]、人間の接触はわずらはしい[#「人間の接触はわずらはしい」に傍点]、私は一人で飲まう[#「私は一人で飲まう」に傍点]、そして酔はう[#「そして酔はう」に傍点]、そして唄はう踊らう[#「そして唄はう踊らう」に傍点]!

 十月廿三日[#「十月廿三日」に二重傍線] 好晴。

昨夜、一人で飲んで酔うたので、今朝はさつぱりと身心が軽い、酒はほんによろしい。
早朝、財布をさま[#「ま」に「マヽ」の注記]さまにして、前のF家で白米一升ほど分けて戴く。
飯! 飯といふもののうまさありがたさが身にしみる、心にこたえる、私は貧乏だ[#「私は貧乏だ」に傍点]、そして幸福だ[#「そして幸福だ」に傍点]。
秋寒を感じさせる風、水、雲。
昨日も今日も毎日、とても好い日和、秋のよろしさが泌みわたり澄みとほる。……
落ちついて読書。――
純真で[#「純真で」に傍点]、そして愚鈍で[#「そして愚鈍で」に傍点]、それでよろしい。
酒なしデー[#「酒なしデー」に傍点]、煙草なしデー[#「煙草なしデー」に傍点]だつた。
よき食慾[#「よき食慾」に傍点]とよき睡眠[#「よき睡眠」に傍点]とがあつた。
方便として、禁酒節酒の仮面[#「禁酒節酒の仮面」に傍点]を被らうかとも思ふ、私は勿論、酒からは離れ得ないが、人から離れたいのである、人間(私のやうな人間でも)全然は孤独ではあり得ないけれど、孤独でありたいと願ひ、また、孤独であることの出来る時機がある、私は今、さういふ時機に直面してゐるやうである、……なほよく考ふべし。
[#ここから1字下げ]
省みて疚しくない生活
恥ぢない生活
かげひなたのない生活
雲のやうな、風のやうな
水のやうな生活
何物をも恐れない
誰をも憚らない生活
すなほにつつましく
あたたかい、やさしい生活
[#ここで字下げ終わり]

 十月廿四日[#「十月廿四日」に二重傍線] 晴、申分のない晴。

寒い、水がつめたい、火がなつかしくなつた。
酒[#「酒」に白三角傍点]もよい、煙草[#「煙草」に白三角傍点]もよいが、本[#「本」に白三角傍点]もよいな。
Kから来信、ありがたう/\/\。
午後、街へ出かけて、払へるだけ払ふ、飲めるだけ飲む、歩けるだけ歩く、……半日半夜彷徨、どろ/\になつて戻つたが、留守中たいへんだつたらしい。――
黎君が来
前へ 次へ
全69ページ中38ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング