てゐる、俊和尚は熊本から熊本の悪夢を思ひださせるやうに書いてよこす、困るね、リンゴは有一君の人間のよさをそのまゝ現はしてゐる。
しづかにしてなつかしく、といつたやうな気分だ、だが、私にも私としてのなやみがありなげきがある、それがだん/\「もののあはれ」といつたやうな情緒になりつつあるが。
私は俳句に対して monomania だ、それでよろしい。
Sweet solitude ! それがなくてはかういふ生活はつづけられない。
無理のない、こだはりのない、ゆつたりとしてすなほな身心が望ましい、欲しい。
米がなくなつた(銭はもとよりない)、ハガキが百枚ばかりある、それで何とかならう。
夕方やりきれなくなり、街へ出かけてハガキを酒に代へる、ハガキ酒はよかつたね、ほどよく酔うた、さるにても酒飲根性のいやしさよ。
学校の給仕さんが呼びに来た、樹明君宿直といふ、さつそくまた出かける、御馳走になつてそのまま泊る、少々飲みすぎて少々あぶなく少々寝苦しかつた。
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□自分の本分[#「自分の本分」に傍点]を知れ。
自分の塔[#「自分の塔」に傍点]を築きあげよ。
□あたりまへのもの、すなほなもの、ありのままのもの[#「ありのままのもの」に傍点]。
さういふものを私は尊ぶ。
□孤独《ヒトリ》はうたふ。
私の俳句はさういふうたの一つだ。
×
空談閑語[#「空談閑語」に傍点]。
[#ここで字下げ終わり]
十月十五日[#「十月十五日」に二重傍線] 晴。
早起帰庵、何と好い秋日和。
留守中にNさんが来たらしい、すまなかつた。
少々胃の工合がよろしくない、迎酒として昨夜の残りものを飲む、壁のつくろひはやつぱり泥だといひます!
待つもの[#「待つもの」に傍点]来ない、だいたい待つといふ気持がよろしくない、私にあつては。
洗濯、これはあまり自慢にはならない。
午後、散歩、入浴、学校に寄つて、新聞を読み米を貰うて戻る、樹明君、まことにありがたう。
夜、Nさん来訪、しばらく雑談。
割合によく眠れた。
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私の一生[#「私の一生」に白三角傍点]
更年期の苦悶――老年期へ入る不安。
動揺焦燥も解消した。
老境[#「老境」に傍点]。
私の前半生はこゝに終つた、後半生はこれからである。
山頭火の真骨頂は今後に於て発揮せられ
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