さうな朝日がこゝまで
・はたしてうれしいことがあつたよこうろぎよ
・飛行機はるかに通りすぎるこほろぎ
・つめたくあはただしくてふてふ
・ひつそりとおだやかな味噌汁煮える
・百舌鳥もこほろぎも今日の幸福
・水をわたる誰にともなくさようなら
・月の澄みやうは熟柿落ちようとして
・酔ひざめの風のかなしく吹きぬける(改作)
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十月十日[#「十月十日」に二重傍線] 晴――曇。
けさも朝月がよかつた。
小猫でも飼はうかなどゝ思ふ(犬も悪くないけれど私にはとても養ひきれない)、こんなことを考へるのは年齢のせいか、秋だからか、とにかくペツトが欲しいな。
平静、しづかに読み、しづかに考へる、時々オイボレセンチを持て余す、どう扱つたらよからうか。
松茸で一杯二杯三杯やりたいなあ、あの香、あの舌触、ああやりきれない!
こんな句を見つけた――
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老いぬれば日の永いにも涙かな 一茶
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さつそく、附きすぎる句を附ける――
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夜ルも長くてまた涙する 山頭火
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同老相憐むとでもいはう。
たよりいろ/\ありがたし、それにつけても、私の方からあげなければならないたよりであげずにあるたより、たとへば秋君へのそれのやうなのがある、それを考へると胸がいたくなる、決してなほざりにしてゐるのではないが、あげられないのだ、あげたいあげたいと念じながらあげることが出来ないのだ!
今日も小包、長野の北光君から、信濃の春をおもひだす、一昨日は伊豆の一郎君から小包を受取つて、今春の会合をなつかしんだが。
第二日曜[#「第二日曜」に傍点]十月号、はつらつとしてたのもしい、音律論がまた問題になつてゐる、俳句のリズム論はずゐぶん、むつかしい問題であるが、それを理論づける[#「理論づける」に傍点]人は別にある、私はそれを実行づけ[#「実行づけ」に傍点]なければならない。
とにかくぼんやりしてはゐられない、勉強することだ。
心の中で或る人に詑びる、――友としてのすまなさよりも人間としての恥づかしさ[#「人間としての恥づかしさ」に傍点]を私は痛感してゐます。
郵便物を持つて街へ、そして米を買へるだけ買ふ、そして一杯やりたいが、今日はダメダメ!
私には仏道修行[#「仏道修行」に傍点]はとても出来ないが(仏弟子と
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