たし。
やうやく花茗荷が咲いた。
蚊帳を仕舞ふ、冬物の用意はどうぢや、質受をいそがないと風邪をひくぞ!
[#ここから4字下げ]
三界万霊
[#ここで字下げ終わり]

 九月十九日[#「九月十九日」に二重傍線] 曇。

秋風、間違なく秋風。
子規忌、子規逝いて何年、年々鶏頭は赤し。
花めうが[#「花めうが」に傍点]匂ふ、それはあまりに独善的な。
身辺整理、日記も書き改めるし、浴衣も洗濯しました。
茶の木がもうかたいつぼみを持つてゐる。
たよりいろ/\、ありがたし/\。
昼飯をたべてゐるところへNさん来訪、何もないからいつしよに近郊散策、そのまゝ別れた。
二人のなまけもの[#「二人のなまけもの」に傍点]! わるくない題号だね!
今日の散歩はNさんが青唐辛を貰つてくれた、帰庵早々佃煮にしてをく。
左の太腿が痛い(昨日から)、そろ/\ヤキがまはつてもいゝころだ。
かへつてぼんやりしてゐると、樹明君から来信、今日は御案内があるべきだらう、云々、御案内しようにも出来ませんよといふ。
酒屋が酒を持つてくる(樹明君を通してSさんから)、樹明君が下物をぶらさげてくる。
夕焼がうつくしい。
三人で飲む、食べる、しやべる、――そして、それから例によつて例の如し。
ほろ/\ぼろ/\、とろ/\どろ/\、おそくもどることはもどつた、感心々々、感心々々。

 九月二十日[#「九月二十日」に二重傍線] 曇。

朝酒がある、あれば飲まずにはゐられない私だ。
やつと来た、それを持つて街へ、昼も夜もなくなつた、彼も私もなくなつた、……一切空々寂々だつた、濡れて戻つて寝た。……

 九月二十一日[#「九月二十一日」に二重傍線] 晴。

自責の念にたへなかつた、何といふ弱さだらう、自分が自分を制御することが出来ないとは!
終日憂欝、堪へがたいものがあつた。

 九月廿二日[#「九月廿二日」に二重傍線] 秋晴。

朝、眼が覚めるといつも私は思ふ、――まだ生きてゐた[#「まだ生きてゐた」に傍点]、――今朝もさう思つたことである。
山の鴉がやつて来て啼く、私は泣けない。
身心重苦しく、沈欝、堪へがたし。
虚心坦懐[#「虚心坦懐」に傍点]であれ、洒々落々たれ、淡々たれ、悠々たれ。
午後はあんまり気がふさぐので近郊を散歩した、米と油とを買うて戻る。
樹明君は来てゐない、来てくれさうにもない、九、一九の脱線でまた戒厳令
前へ 次へ
全69ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング