それから――それから――気持よく飲んで歩いて、とろ/\ほろ/\になつた。
I屋に泊る、動けなくなつたのだ!
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△酔線
微酔線、泥酔線。
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九月八日[#「九月八日」に二重傍線] 日本晴。
早朝帰庵、やれ/\。
閑居――読書――回顧――微苦笑。
秋空一碧、身はさわやかだが心はぼんやり。
何とかいふ小鳥がとても悲痛な声で啼く、私の代辯[#「私の代辯」に傍点]ででもあるやうに。
つく/″\思ふ、私の寝床はよい寝床[#「私の寝床はよい寝床」に傍点]!
九月九日[#「九月九日」に二重傍線] 晴――曇。
すなほにつつましく。――
ほどよく[#「ほどよく」に傍点]飲む、ほどよく酔ふ――ほどよく生きる――それが出来ない不幸。
たよりいろ/\、ありがたい/\。
さつそく米と酒[#「米と酒」に傍点]を仕入れるべく出かける、どちらへ行かうか、山口へ行かう(平民の独り者はノンキである、キラクである、ワガママである。シアワセである)、上郷から一時の列車に乗る、山口駅前の十銭食堂で飲んで食べて四十銭、いろ/\買物をする、三円あまり買つたら持ちきれないほどある、湯田へまはつて一浴、バスで足元のあかるいうちにめでたく帰庵。
だいぶ日が短かくなつた、私にも夜も昼も長いのだが。
めつきり蚊が少くなつた、虫の声が鋭くなつた、秋らしい秋になつてくる。
不眠、読んだり考へたりしてゐるうちにたうとう夜が明けた、老境を感じた。
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△忘れた句[#「忘れた句」に傍点]は逃げた魚のやうに感じる、その実その句はくだらない句なのだ、その魚がつまらない魚であるやうに。
△憑かれたもの[#「憑かれたもの」に傍点]! 私もその一人らしい、酒に憑かれてゐる、句に憑かれてゐる。
△かういふ生活をしてゐて、さびしくないといふのはウソだ、ウソはいひたくない、いふものではない。
笑ふものは笑へ。
おかしければ笑へ。
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九月十日[#「九月十日」に二重傍線] 曇。
二百二十日、さすがに厄日らしく時々降つたり吹いたり、雷鳴があつたり、多少不穏な空気が動かないでもなかつたが、無事だつた。
番茶のうまさよ、酒もうまいが、茶にはまた茶独特のうまさがある。
茶の味は私にはまだほんたうに解らないけれど。
午後、街へ散歩
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