[#「昨夜の今朝の私」に傍点]だ、何となく身心がだるい。
迎酒! 牛肉もまだ残つてゐる。
ゲジゲジを見つけたのでたたき殺した、殺してから気持が悪かつた、無益の殺生とは思はないけれど、人間のエゴであることには間違ひない。
今日も古悪友樹明君[#「古悪友樹明君」に傍点]、新悪友K君[#「新悪友K君」に傍点]がやつて来て、あつさり飲んだ、ヨタ話がはづんだ。
あな、おもしろの浮世かな。
宵寝の朝寝だつた。
八月二十日[#「八月二十日」に二重傍線] 晴、午後曇る。
何やかや用事が出てきて、なか/\忙しい。
駅のポストまで。
トマトがとても食べきれない(私があまり食べないからでもあるが)、郵便さ[#「便さ」に「マヽ」の注記]んにでも食べてもらはう。
すなほにつつましく[#「すなほにつつましく」に傍点]、今日も生きる[#「今日も生きる」に傍点]、うれしい。
待つ人来らず、待つ物受け取れない、さびしい。
午後、河尻へ出かけて蜆貝を掘る、食べるだけはすぐ与へられた、ありがたい。
刈萱を摘んで戻つた、これも私の好きな草である、まだ穂が出てゐないから、刈萱の風情は十分に味へないが。
蜆貝汁をこしらへつつ、私は心で叫んだ、――蜆貝よ、私は今、鬼になつてゐるのだ!
いつ来たのか、鼠がさわぐ、鼠は家につきものだ、寝床はあげるが食物はあげられないぞ。
八月二十一日[#「八月二十一日」に二重傍線] 半晴半曇。
今朝は早起だつた、御飯が[#「が」に「マヽ」の注記]食べてから六時のサイレンがきこえた。
街へ出かける、買物いろ/\、アメリカから句集代を送つて下さつた渓厳子に感謝する。
来信とり/″\すぐ返事を認めて、駅のポストへ。
雑草を眺めて、そのよろしさを味ふ。
午後また街へ、焼酎二合弐拾四銭、大根一本五銭、落ちついて晩酌、そして読書。
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緑平老に
……出放題になりたいといふあなたが出放題になれないで、なりたくないと思ふ私がなる、とかく世の中はかうしたもので、さういふ人生もまたおもしろいではありませんか。……
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Kが結婚するさうな、いや、したさうな
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をべしをみなへしと咲きそろふべし
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この一句が私のせめてものハナムケに有之候、あはれといふもおろかなりけり。
[#ここで字下げ終わり]
八月廿
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