]を飲むべきだ。
[#ここから3字下げ]
一、焼酎(火酒類)を飲まないこと
一、冷酒を呷らないこと
一、適量として三合以上飲まないこと
一、落ちついてしづかに、温めた醇良酒を小さい酒盃で飲むこと
一、微酔で止めて泥酔を避けること
一、気持の良い酒であること、おのづから酔ふ酒であること
一、後に残るやうな酒を飲まないこと
[#ここで字下げ終わり]

 六月一日[#「六月一日」に二重傍線] 晴。

やうやくにして平静をとりもどした、山頭火が山頭火の山頭火[#「山頭火の山頭火」に傍点]にかへつたのである。
大山君から、益洲老師講話集「大道を行く」頂戴、さつそく読む。
本来無一物[#「本来無一物」に傍点]、その本心に随順せよ。
いよ/\ます/\句作道精進の覚悟[#「句作道精進の覚悟」に傍点]をかためる、この道を行くより外ない私である!

 六月二日[#「六月二日」に二重傍線]

午前は山をあるく、山川草木そのまゝでみなよろし。
午後は来書の通りに樹明君来庵、酒と魚とを持参して、そしてほどよく酔うて話して寝て、こゝろよくさよなら、めでたし/\。
自己観照[#「自己観照」に傍点]、自己批判[#「自己批判」に傍点]。
無理のない生活[#「無理のない生活」に白三角傍点]、さういふ生活の根源は素直な心[#「素直な心」に傍点]である。
簡素、質実、感謝、充足、安心。
[#ここから2字下げ]
・ゆふべしたしくゆらぎつつ咲く(月草)
・おみやげは酒とさかなとそして蝿(樹明君に)
・何を求める風の中ゆく
・若葉あかるい窓をひらいてほどよい食慾
 青葉のむかうからうたうてくるは酒屋さん
 風ふく竹ゆらぐ窓の明暗
 風の夜の更けてゆく私も虫もぢつとして
[#ここで字下げ終わり]

 六月三日[#「六月三日」に二重傍線] 曇。

けさも早起。
午後は風雨が強くなつた、哀傷たへがたいものがある、……風雨を衝いて街へ出かける。
Fで樹明君に会して飲む、……それから泥酔してIに泊つた。……

 六月四日[#「六月四日」に二重傍線] 晴。

やつぱり酒はよろしくないと思ふ、それがうまいだけそれだけよろしくないと思ふ。
散歩、上郷八幡宮の社殿で読書、帰途入浴、連日の憂欝が解消した。

 六月五日[#「六月五日」に二重傍線] 曇。

旧の端午、追憶の鯉幟吹流しがへんぽんとして泳いでゐる。
今日も近郊散歩。
[#ここから2字下げ]
 風がいちめんの雑草が合唱する
・つかれて風の雑草の雨となつた
・逢へるゆふべの水にそうてまがれば影
・あざみの花に日のさせばてふてふ
・狛犬の二つの表情を撫でる
・おもひでが風をおよぐ真鯉緋鯉が(故郷端午)
[#ここで字下げ終わり]

 六月六日[#「六月六日」に二重傍線] 晴。

久しぶりにゆつくり朝寝した。
近在散歩、秋穂霊場参拝。
畑手入、今春は私の悪日[#「私の悪日」に傍点]がつづいたので、茄子も胡瓜もトマトも植ゑつけるほどの安静を持たなかつた。……
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
   ぐうたら手記
雑草雑感。
生命――心――言葉――詩
客観を掘りぬくと主観にぶつつかる、彼が我となるのである。
物――心、自然――自己
物にこだはらない、物からわずらはされない境地。
流動して停滞しない境地。
二二ヶ四の世界[#「二二ヶ四の世界」に傍点]!
[#ここで字下げ終わり]

 六月七日[#「六月七日」に二重傍線] 曇、雨、そして晴。

最初の筍を見つけて食べる、歯が抜けて噛みしめることが出来ないから、ほんたうの味は味へないけれど、やつぱりうまい。
遠雷、何となく別れた人をなつかしがらせる、これもオイボレセンチの一端か。
飛行機が列をなして低空を通過する、あの爆音は嫌だけれどその姿は悪くない。

 六月八日[#「六月八日」に二重傍線] 晴。

信州蕎麦粉を味ふ、蕎麦粉そのもののうまさもあるが、友情のあたたかさがうれしい。
飯がない、米がない、銭がない。――
山を歩く、山つつじがうつくしい。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
   ぐうたら手記
□即時而真[#「即時而真」に傍点]、当相即道を体解[#「体解」に傍点]せよ。
□すなほなわがまま[#「すなほなわがまま」に傍点]!
□酒は(少くとも私には)自己忘却の水[#「自己忘却の水」に傍点]である、不眠の夜ふけて飲むアダリンのやうに!
□私は与へること[#「与へること」に傍点]が乏しい、だから受けること[#「受けること」に傍点]の乏しさで足りてゐなければならない。
□文芸作品の価値は二つに分けて観ることが出来る。
[#ここから3字下げ]
一、作品そのものゝ価値(純文芸的[#「純文芸的」に傍点])
一、作品が時代へ働らきかけた価値(史的意義)
[#ここから2字下げ]
この二つの価
前へ 次へ
全47ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング