が、アテがなくては生活は出来ないが、アテが外れても困らない心がまへ[#「アテが外れても困らない心がまへ」に傍点]は持つてゐなければなるまい。
[#ここで字下げ終わり]

 九月二十八日[#「九月二十八日」に二重傍線] まことに秋晴。

昨夜の今朝でも身心ほがらか。
油虫め、弱々しくなつてゐる、よろ/\してゐる、見つかり次第、たゝき殺す私はじつさい暴君だ。
待つているKからの手紙が来ない、湯田行乞と心をきめて、九時頃から出かける。
椹野川土手づたひにぼつり/\と歩く、山の色も水の音もすべて秋。
湯田競馬へいそぐ慾張連中がぞろ/\。
湯田行乞四時間。
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今日の功徳、  米、一升八合
        銭、四十四銭
        句、七章
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行乞は省みて恥づかしいけれど、インチキ商買をするよりもよいと思ふ(私はインチキはやらうと思つたつてやれないけれど)。
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昼飯の代りとして、焼酎半杯、六銭
         焼饅頭三つ、五銭
[#ここで字下げ終わり]
それから千人湯[#「千人湯」に傍点]にずんぶり、ああありがたい。
四時過ぎて周二居訪問、いつものやうに本を借り御馳走になる、そして句会。
まことによい一夜であつた、S夫人のへだてなさ、K君の若さ、H嬢のつゝましさ。
散会したのは十時すぎ、いつもの癖でおでんやで飲み足す(鈴木さん、すみません)、そしてもう汽車もバスもなくなつたので、駅のベンチで寝る。
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   其中漫談
     九[#「九」に「マヽ」の注記]月廿八日の行乞中の特種――
□西村のお嬢さんに句会の事を話さうと思つて立寄つたら、女中さんがあはてゝ皿に米を盛つてくれた。
□大歳の或る家で、斎藤さんの宅とは知らず立つて、奥さんに名乗りをあげた。
□アイスキヤンデーの店でアイスキヤンデーの青いのを一本供養してくれた。
□或る結髪処で、そこにゐた老妓がつと立つてきて、十銭白銅貨を鉄鉢へ入れた。
□女郎屋の老主人が間違つて五十銭銀貨をくれた、それを返すと喜んで改めて一銭銅貨二枚くれた。
[#ここで字下げ終わり]

 九月廿九日[#「九月廿九日」に二重傍線] 晴、いよ/\秋。

東の空が白むのを待つて湯田へ、朝湯はよろしいなあ、何とゆたかな温泉。
バスで上郷まで、無事帰庵、帰庵して酒があることは、ほんたうにうれしい。
バス風景――
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とても愉快な女中さん
いやな釣人どうし
[#ここで字下げ終わり]
シヨウガ四つで一銭とは! おばあさん、すみませんね。
天たかく地ひろし、秋、秋、秋。
まさに萩の花ざかり。
今日は郵便が来ない、Kからいつもくる手紙が来ないので、何となく不安な気がする。……
やつと駅のポストまで出かけて、すぐ戻つた。
読書三昧。
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   其中漫筆
……おもひわずらふところさらになし。……
私の山羊髯[#「私の山羊髯」に傍点]。
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・たえずゆれつつ葦の花さく
・水音の流れゆく秋のいろ
・青草ひろく牛をあそばせあそんでゐる
・となも[#「なも」に「マヽ」の注記]お留守で胡麻の実はじける
・鉄鉢の秋蝿を連れあるく
・秋暑い鉄鉢で、お米がいつぱい
   おでんや
・更けると食堂の、虫のなくテーブル
・秋はうれしい朝の山山
[#ここで字下げ終わり]

 九月三十日[#「九月三十日」に二重傍線] 日本晴、時々曇つたり降つたりしたけれど。

身辺整理。
けふも郵便が来ない、山の鴉が庵をめぐつて啼きさわぐ、何だか気になる、何となく憂欝になる。
待つもの――手紙――は来ないで、待たない人――掛取――が来た、とかく世の中はかうしたもの!
宵からグウグウ(ランプに油もないので)、夜中に眼がさめて、鼠の悪趣味――どこかをたゞかぢる音――を聞いた。
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・干しならべておもひでの衣裳が赤く青く
 山からけふは街の人ごみにまじらう
・地べたとぶてふてふとなり秋風
・誰かやつてくる足音が落葉
・秋のゆふべのほどよう燃えるほのほ
[#ここで字下げ終わり]

 十月一日[#「十月一日」に二重傍線] 晴。

国勢調査日、私もその一枚に記入した。
今年も余すところはもう三ヶ月。
花めうがが匂ふ、白百合ほど強くなくて、まことに奥床しいかをりである。
けふも鴉が身にちかく啼く。
やつと郵便が来た、Kから手紙が来たので、ほつと安心した。
払へるだけ払ひ、買へるだけ買ふ、残つたのは一銭銅貨二つ!
樹明君を招待する、――ちり[#「ちり」に傍点]で一杯。
[#ここから2字下げ]
酒一升、  壱円
小鯛三尾、拾弐銭 青いものは樹明君持参
豆腐三丁  九銭
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ほど
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