・麦田うつ背の子が泣けば泣くままに
暮れてひつそり雪あかり月あかり
・月がうらへかたむけば竹のかげ
・雪ふる食べる物もらうてもどる
農村風景の一つ
・梅がさかりで入営旗へんぽんとしてひつそりとして
悪友善友に
わかれてひとり、空のどこかに冷たい眼
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一月十七日[#「一月十七日」に二重傍線] 雪がうつくしい、ふつてはきえる。
朝早くから今日も雪見酒、もつたいない仕合せである。
雪のふりしきる中を街のポストまで。
今日の買物は――餅、うどん、パン、いなり鮓!
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ぐうたら手記
□佃煮と老境と日本的なもの[#「日本的なもの」に傍点]。
□豚の生活、食べて、そして食べられるだけ!
□写生[#「写生」に傍点]――文字通りに――イノチヲウツス[#「イノチヲウツス」に傍点]。
□忌花の話[#「忌花の話」に傍点]。
※[#二重四角、265−2]何よりも不自然[#「不自然」に傍点]がよくない、いひかへれば生活に無理[#「無理」に傍点]があつてはいけない、無理があるから不快[#「不快」に傍点]があり、不安[#「不安」に傍点]があるのである。
□買ひかぶられるきまりのわるさよりも、見下げられる安らかさ。
※[#二重四角、265−5]将棋の名手は含み[#「含み」に傍点]といふことをいふ、一手は百手二百手を含んでゐるのである、また、千石二千石の水からしたゝる一滴[#「一滴」に傍点]は力強いものを持つてゐる、そのやうに一句は全生活全人格からにじみでたもの[#「一句は全生活全人格からにじみでたもの」に傍点]でなければならない。
※[#二重四角、265−8]私の一句一句は私の一歩一歩である、一句は一歩踏みゆく表現である。
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一月十八日[#「一月十八日」に二重傍線] 晴、ちらほら小雪がふつて冷たい。
あれば食べすぎる下司根性[#「下司根性」に傍点]が恥づかしい! どうやら餅を食べすぎたらしいので今日はパン。
呪はれた枇杷の木、それがいつのまにやら枯れた! さびしい。
夜を徹して句作推敲……。
明日は入営の別宴の唄声がおそくまできこえた。
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・雪もよひ雪となつた変電所の直角形(改作)
・おもひでがそれからそれへ晩酌一本
・雪あかりのしづけさの誰もこないでよろし
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