ひ)
・もう葉ざくらとなり機関車のけむり
・うどん一杯、青麦を走る汽車風景で
・風がつよすぎる生れたばかりのとんぼ
・山ふところわく水のあればまいまい
[#ここで字下げ終わり]
四月十五日[#「四月十五日」に二重傍線] 曇、めつきりぬくうなつた。
去年の今日[#「去年の今日」に傍点]をおもふ、飯田で病みついた日である、死生の境[#「死生の境」に傍点]を彷徨しだした今日である。
アルコールの誘惑[#「アルコールの誘惑」に傍点]! その誘惑からのがれなければならない、いや、アルコールに誘惑されないほどの、不動平静の身心を練りあげなければならない。
アルコールの誘惑と酒のうまさ[#「酒のうまさ」に傍点]とは別々である。
柿の芽がうつくしい、燕の身軽さよ。
いや/\ながら街へゆく(この事実でも私の衰弱を証明する、一日三度も街へ出かけた私ではなかつたか)、出さなければならない手紙もあるし、石油もなくなつたし、塩すらもなくなつてゐるから、――米もなくなつてゐるけれど、買ふだけの銭がないので、今日はそば粉か何かですます(これは断じて貧乏ではない)。
塩ほど必要でそして安価なものはない、同時に、酒ほど贅沢で高価なものはない、といへる。
腹は酒でいつぱいになつた、しかも酔へない、何といふ罰あたり[#「罰あたり」に傍点]だらう、悲惨だらう。
しづかに飲む、おのづから酔ふ、山は青くして水の音、鳥が啼きます、花が散ります、あああ。
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ぐうたら手記
□生活感情、生活リズム[#「生活リズム」に傍点]、生活気分。
□俳句であるといふ以上は俳句の制約[#「俳句の制約」に傍点]を守らなければならない。
□俳句性とは――
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単純化[#「単純化」に傍点]
直観[#「直観」に傍点] 冴え――凄さ。
求心的[#「求心的」に傍点]
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生活感情┐
社会感情├リズム
時代感情┘
[#ここで字下げ終わり]
四月十六日[#「四月十六日」に二重傍線] 曇、后晴。
酒があるから酒を飲んだ、飯はないから食べなかつた、明々朗々である。
たより、それ/″\にありがたし、一つのたよりには一つの性格がある、人生がある。
やつと米が買へた、米がないことはほんたうに情ない。
十何日ぶりに入浴髯剃、さつぱりがつかりした。
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