ンネル
冬ぐもりの波にたゞようて何の船
ここにも住む人々があつて墓場
・家があれば田があれば子供や犬や
・雪もよひ雪にならない工場地帯のけむり
ひさしぶり話せば、ぬくい雨となつた(白船老に)
あれもこれもおもひでの雨がふりかゝるバスで通る
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二月十一日[#「二月十一日」に二重傍線] 晴、紀元節、建国祭。
こゝろよい睡眠から覚めて、おいしい朝飯を食べて、戻つてきて、昨夜の跡片付をする。
午後、樹明君と磯部君とを招いて残肴残酒でうかれる、うかれすぎてあぶなかつたが、やつと散歩だけですました、めでたし/\。
月もおぼろの、何となく春めいた。
二月十二日[#「二月十二日」に二重傍線] 曇。
門外不出、独臥読書。
二月十三日[#「二月十三日」に二重傍線]
おなじく、おなじく。
二月十四日[#「二月十四日」に二重傍線] 曇。
今日も門外不出、終日読書。
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・花ぐもりの、ぬけさうな歯のぬけないなやみ
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二月十五日[#「二月十五日」に二重傍線] 曇、ばら/\雨。
身辺整理。
四日ぶりに街へ出かける、そして七日ぶりに入浴する。
二月十六日[#「二月十六日」に二重傍線] 時雨、春が来てゐる。……
めづらしくも、乞食がきた。……
夕方、樹明君来庵。……
春琴抄[#「春琴抄」に傍点]を読む。……
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・春めいた朝はやうから乞食
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二月十七日[#「二月十七日」に二重傍線] 晴、降霜結氷、春寒。
三日ぶりに街へ出て、酒一罎借りる、酒でも飲まなければやりきれなくなつたほど、身心が労れて弱つてゐるのである。
アルコールのおかげで宵の間はぐつすり寝た、夜中に眼覚めて、茶の本[#「茶の本」に傍点]を一年ぶりに読みなほす、よい本はいつ読んでもいくど読んでもおもしろい。
夜の雨、それは冬がいそいで逃げてゆくやうな、春がいそいでくるやうな音を立てゝ降つた。
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・霜晴れほのかに匂ふは水仙
或る夜の感懐
・死にたいときに死ぬるがよろしい水仙匂ふ
・寝るとしてもう春の水を腹いつぱい
・月夜雨ふるその音は春
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二月十八日[#「二月十八日」に二重傍線] 春ぐもり、雨。
日照雨、春が降るやうな雨、ひよ
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