食べ
 朝のひかりのちりあくたうつすりと雪
・春がちかよるすかんぽの赤い葉で
・雪をたべつつしづかなものが身ぬちをめぐり
・をとことをんご[#「ご」に「マヽ」の注記]といつたりきたりして雪
・雪のあかるさの死ねないからだ
   井師筆の額を凝視して
 雪あかりの「其中一人」があるいてゐるやうな
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 二月八日[#「二月八日」に二重傍線] 曇、消え残る雪の寒さ。

少々風邪気味で、咳が出て洟水が出るけれど、約束通り山口へ行く、先づ湯田の温泉に浸る、それから市中を散歩する、本屋を素見したり、山を観たりして、夕方、周二居を訪ねる、おとなしい句会であつた、三輪さん、山廷さん、そして奥さん、人数は少ないけれど熱心があつた、終列車で帰庵、十二時近かつた、それから火をおこし炬燵をあたゝめ、湯を沸かし餅を焼いて、食べて、そしてゆつくり寝た、独身者はなか/\忙しかつた。
今日は寒かつた、坐つてゐても歩いてゐても冬を感じた、多分此季節中では、今日が厳寒であらう。
真夜中――二時頃にけたゝましく警察のサイレンが鳴りだした、蒸気ポンプの疾走する音も聞える、火事だらうと思つたが(小郡としては珍らしい)、労れてゐるので起きて見る元気もなく、そのまゝ睡りつゞけた。
今日はまことによい日[#「よい日」に傍点]であつた。
山口で外郎[#「外郎」に傍点]一包を買つた、明日徃訪する白船老への土産として。
S奥さんの温情にうたれた、尊敬と信頼とに値する女性として。
今日もしみ/″\感じたことであるが、私もたうとう『此一筋』につながれてしまつた、私の中で人と句とが一つになつてゐる[#「私の中で人と句とが一つになつてゐる」に傍点]、私が生活するといふことは句作することである、句を離れて私は存在しないのである。
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   ぐうたら手記
※[#二重四角、283−3]私にも三楽[#「三楽」に傍点]といふやうなものがないこともない、――三楽といふよりも三福[#「三福」に傍点]といつた方が適切かも知れない。――
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一、わがままであること、
二、ぐうたらであること、
三、やくざであること、
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いひかへれば、私が無能無力にして独身であり俳人であることに外ならない!
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