よく飲んで、ほどよく酔ふたが、別れ際がちよつとあぶなかつた、桑原々々。
いつのまにやらアイスキヤンデー店が焼芋屋にかはつてゐる、季節のうつりかはりがはつきり解る。
今夜はぐつすり睡れた。……
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・足もとからてふてふが魂のやうに
   花めうが
・夜のふかうして花のいよいよ匂ふ
 藪蚊をころしまたころし曇る秋空
・秋の雨ふるほんにほどよう炊けた御飯で
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 十月二日[#「十月二日」に二重傍線] 曇、とう/\雨。

近所の人が来て、草を刈らせてくれといふ、それほどぼうぼうたる草だつた。
雨になつたので、釣はやめにして読書。
昨日のおあまりを飲む、新菊はおいしいな。
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・うなりつつ大きな蜂がきてもひつそり
・ひなた散りそめし葉の二三枚
・酔ひのさめゆく蕎麦の花しろし
・柿一つ、たつた一つがまつかに熟れた
・柿の葉のおちるすがたのうれしい朝夕
・かまきりがすいつちよが月の寝床まで
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 十月三日[#「十月三日」に二重傍線] 時雨、やつと晴れた。

裏からあたりを眺めると、もうそここゝ黄葉してゐる、柿の葉がばさり/\と落ちる。
小郡の招魂祭、ポン/\花火が鳴る、彼等に平和あれ。
畑仕事、新菊を播き添へ、山東菜を播き直す、播くといふことはうれしい[#「播くといふことはうれしい」に傍点]。
街のポストまで出かける、そして酒と肴とを送つて貰ふやうにY屋へ頼む。
茶の花がもう咲きだしてゐる、それを鑑賞してゐて御飯の焦げるのも知らなかつた、しかし焦げた御飯は、いや焦げるまで炊きあげた御飯はおいしいものである。
御飯の炊き方について道話[#「道話」に傍点]一則――
焦げた部分――犠牲となつた部分と、熟成した部分――よく炊けた部分との関係。……
酒がもたらされた、鮭の罐詰も――そして私はいうぜんとして飲みはじめたのであるが、いつしかぼうぜんとして出かけた、Yさんからいつものやうに少し借りて、F、Y、N、M、Kと飲み歩いた、……とう/\駅のベンチで夜を明かしてしまつた……それでも帰ることは帰つた。
久しぶりの、ほんたうに久しぶりの、小さい[#「小さい」に傍点]、小さい脱線[#「小さい脱線」に傍点]だつた。
時々は脱線すべし[#「時々は脱線すべし」に傍点]、ケチ/\すべからず、クヨ/\すべからず。
[#
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