明君約をふんで来庵、お土産は餅、ボタ餅がないのが残念だつたが。
気持よく飲んで酔うて、さよなら。
今日、駅のポストまで出かけたついでに、ライスカレーを食べた、O食堂のそれは肉めし程度、さらにK食堂のそれはうまかつた、とにかく私は私の胃袋[#「私の胃袋」に傍点]に祝福をさゝげます!
一月廿八日[#「一月廿八日」に二重傍線] 晴れてあたゝか、すこし歩く。
畑仕事、すぐ労れてダメ、情ないかな。
ようねむれることは何よりのよろこびだ。
一月廿九日[#「一月廿九日」に二重傍線] 曇、冷たい、小雪ちらつく。
たよりいろ/\、うれしいうれしい。
寒い、鯖のさしみで一杯。
ちかごろの私の句作傾向はわるくないと思ふ、一日一句[#「一日一句」に傍点]でたくさんだ、その一句を磨いて磨いて磨きあげるのである、そこに私の性格があり生活があると思ふ。
[#ここから1字下げ]
私の生き方[#「私の生き方」に白四角傍点]――(附、郵便貯金の事)
私は私が不生産的であり、隠遁的であることこと[#「こと」に「マヽ」の注記]のために苦しみ悩んでゐた、そしてやうやくかういふ信念に落ちつくことが出来た――
行動[#「行動」に傍点]といふことは必ずしも直接的[#「直接的」に傍点]であることに限らないと思ふ、性格的に間接的[#「間接的」に傍点]にしか行動し得ない私は、私自身をして、私の周囲をして、なごやかな存在[#「なごやかな存在」に傍点]とし、なぐさめの場所[#「なぐさめの場所」に傍点]として荘厳し提供する、それが私の生活の意義である、と私は考へる。
私は今日から郵便貯金[#「郵便貯金」に傍点]を始めた、一日十銭を節約するのである(バツトをなでしこに、酒三合を二合にといふ風に)、そしてそれは私の死骸かたづけ代[#「死骸かたづけ代」に傍点]となるのである。
省みて疚しくない生活、俯仰天地人に恥ぢない生活、嘘のない生活、秘密のない生活、――無理のない生活、悔のない生活、――私自身の生活。
[#ここで字下げ終わり]
一月三十日[#「一月三十日」に二重傍線] 曇、霙、そして朝酒!
ちよつと街へ、――理髪入浴。
今日はからだのぐあいがよつぽどよかつた。
身も心も欲しがる酒[#「身も心も欲しがる酒」に傍点]、さういふ酒だけ飲むべし。
一月三十一日[#「一月三十一日」に二重傍線] 晴曇、ずゐぶん
前へ
次へ
全93ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング