老人の特権でもあり恩寵でもある。
□一鉢千家飯(行乞心理)。
□カネとゼニ(金と銭とは同意語のものだが)。
□南国の冬。
□自殺の方法いろ/\。
□風味[#「風味」に傍点]とは、風情[#「風情」に傍点]とは、風流、風韻、風光、風物。
「ぐうたら手記」おぼえがき
□何でもない物の美しさ[#「何でもない物の美しさ」に傍点]!
□水を大切にせよ。
□物そのものの値打、殊に食物[#「食物」に傍点]について。
□倹約人、浪費者、命がけの遊蕩(私の過去)。
□私の鳥目と老祖母(鱧の肝のお汁)。
┌或る老婆
□矢足部落に於ける生死去来。│
└盲女
┌霊台寺 ┌カリン
□菩提樹のおもひで。│ │
└味取観音 └イクリ
□枯れた枇杷の木(其中庵)。
□椿に目白[#「椿に目白」に傍点](梅に鶯のやうに)。
□現実を味解せよ[#「現実を味解せよ」に傍点]。
□手紙風呂、日記風呂[#「日記風呂」に傍点]。
□私の生活はまづ私自身に真実なものでなければならない。
□充ち足れり、「放てば手に満つ。」
[#ここで字下げ終わり]
十二月十八日[#「十二月十八日」に二重傍線] 雨。
冬雨といふよりも秋雨にちかい、何といふぬくさだらう、冬は冬らしくあれ、などゝ人間の勝手[#「人間の勝手」に傍点]をいひたくなるほどだ、そしていつのまにやら晴れてきた。
うれしいおくりもの、――黎々火君から鯛の壺雲丹、おかげでお昼食をおいしくいたゞいた。
一日二食にしたい、一食は米麦、一食は雑煮、それに添へて晩酌二合(ゼイタクをいふな)。
何を食べても、その味がえげつない[#「えげつない」に傍点]、――濃厚すぎるやうに感じるのは、私が急に[#「急に」に傍点]老衰したからばかりであらうか。
やうやく第三句集の後記を書きあげた、再考したので意外におくれた、そしてやつと湯銭だけはあるので、湯屋まで出かけた。
気分転換法としては酒[#「酒」に傍点]もよいし散歩[#「散歩」に傍点]もよいが、入浴もよろしい、熱い湯の中にのび/\とからだをよこたへてゐると、こゝろまでがとろけるやうである。
捨丸一行が来演するといふ、私は映画を観るよりもナンセンスを聴く方が好きであるが、昨年は山口へまで出かけて彼を聴いたが、此度は行けさうにもないし、あまり行きたくもない、戯れにざれうたを作つて自から独り笑ふ――
[#ここから2字下げ]
捨丸きこか
酒のもか
のめばきゝたい
きけばのみたい
どちらもやめて寝るとする
□
・空のあをさへ枯れておちない葉のさわぐ
・仕事しまうて今年もをはりの柿をもぐなど
・昼月ほのかに一ひらの雲かげもとゞめない
・ゆふ闇のたゞよへば楢の枯葉のしきりに鳴れば
不眠二句
・ねむれない夜の鶏はなけども明けない凩
・うと/\すれば健が見舞うてくれた夢(病中不眠)
(健は離れて遠い私の独り子の名)
・お祥忌の鐘が鳴り耕やす手を休め
飛行隊通過
・冬空ちかく爆音の脅威
隣の娘
・けふはお嬢さんで白いシヨールで
×
「柿落葉[#「柿落葉」に白三角傍点]」
[#ここで字下げ終わり]
十二月十九日[#「十二月十九日」に二重傍線] 晴、冬らしくなつて曇る。
悠々として酒を味ふ[#「悠々として酒を味ふ」に傍点]――かういふ境涯でありたい。
終日、第三句集山行水行[#「山行水行」に傍点]の草稿をまとめる。
夕方から、樹明君に招かれて学校の宿直室へ出かける、八日ぶりの会話[#「八日ぶりの会話」に傍点]であり(途上挨拶をのぞいて)八日ぶりの酒[#「八日ぶりの酒」に傍点]であつた(濁酒二三杯はひつかけたが)。
食べすぎて飲みすぎて、やつと帰庵して、そのまゝぐつすりと寝た、連夜の睡眠不足をとりかへした。
不眠の苦痛は不眠症にかゝつたものでないと、ほんたうには解らないだらう。
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「ぐうたら手記」
□このみちをゆく[#「このみちをゆく」に白三角傍点]――このみちをゆくより外ないから、このみちを行かずにはゐられないから――これが私の句作道[#「私の句作道」に白丸傍点]だ。
□芸術家の胸には悪魔がゐる、その悪魔が出現して、あばれた時に芸術家は飛躍する、悪魔がころんで神の姿となるのである、芸術的飛躍は悲劇である[#「芸術的飛躍は悲劇である」に傍点]、それは人生で最も深刻な、最も悲痛な行動の一つである。……
□捨てて捨てて、捨てても捨てても捨てきらないものが、それが物の本質であらう(さういふ核心はほんたうには存在してゐないのだらうが)。
□雲丹を味はひつつ物のヱツセンスについて考へた。
□大蘇鉄の話(旦浦時
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