のらくら手記」に傍点]」素材
□一杯の濁酒、それがどんなに彼を慰めるか。
□「腹が立つ」と「腹を立てる」と。
□人生は所詮割れないものであるが、結局は一に一を加へてゆくものである。
□当為 〔so:llen〕 と必然 〔mu:ssen〕 ――私の生き方。
□生存 existence と生活 living ――私のくらし。
□日本人には何よりも米がありがたい!
□働らいても食へない世の中で、ぼんやりして生きてゆける私は喜ぶべきか悲しむべきか、呪ふべきか、祝福すべきか、――私にも誰にも解るまい。
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 十二月十日[#「十二月十日」に二重傍線] めづらしい霧。

何となく身心が重苦しいので、散歩でもして紛らすつもりで出かけたが、それも嫌になつて、戻つてきて読書。
読書、思索、散歩、――これが私に与へられた、いや恵まれた仕事[#「恵まれた仕事」に傍点]である。
人生の矛盾に時々うたれる――
死にたくて死ねない人、死にたくないけれど死ななければならない人。
人生は過程[#「人生は過程」に傍点]だといふ気がする、生から死への旅である、事の成ると成らないとは問題でない、どれだけ真実をつくしたか、それが問題だ。
尽人事俟天命[#「尽人事俟天命」に傍点]、あしたに道をきけばゆふべに死すとも可なり、――こゝに安心決定の鍵がある。
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   「のらくら手記[#「のらくら手記」に傍点]」素材
□老祖母と夏密[#「密」に「マヽ」の注記]柑の種。
□したいこと、しなければならないこと、しないではゐられこ[#「れこ」に「マヽ」の注記]と。
 労働と遊戯、強制と自由。
□日本人の食慾の究極は梅干に茶漬か、炊立飯に味噌汁か、新漬に濁酒か。
□空想を実行する人、実行を空想する人。
□知ること、忘れること。
□自然観照――自己観照――人間観照。
□ランプと新聞。
□味ふ心[#「味ふ心」に傍点]、五十にして物の味を知る、知味[#「知味」に傍点]。
□頓死――ころり徃生。
   ぐうたら手記[#「ぐうたら手記」に白三角傍点](覚書)
 行乞[#「行乞」は枠囲み] 三輪空寂、三つの功徳
      一、腹を立てなくなつた事
      一、物を粗末にしなくなつた事
      一、何を食べてもおいしくなつた事
 年の暮[#「年の暮」は枠囲み] 年くれぬ笠きて草鞋はきながら
 冬ごもり[#「冬ごもり」は枠囲み] 冬ごもりまたよりそはむこの柱
□月と緑平と私と酒。
□鼠のゐない家[#「鼠のゐない家」に傍点]、[#「鼠のゐない家[#「鼠のゐない家」に傍点]、」は底本では「鼠のゐない家、[#「のゐない家、」に傍点]」]油虫[#「油虫」に傍点]は[#「油虫[#「油虫」に傍点]は」は底本では「油虫は[#「虫は」に傍点]」]私を神経衰弱にする。
□簑虫よ、簑虫よ。
□炬燵といふもの。
 日本家屋、日本国土、日本人。
□妙な夢のいろ/\。
□音立てずして、しん/\として燃ゆる火[#「しん/\として燃ゆる火」に傍点]。
□小さくとも完いもの[#「小さくとも完いもの」に傍点]、[#「小さくとも完いもの[#「小さくとも完いもの」に傍点]、」は底本では「小さくとも完いもの、[#「さくとも完いもの、」に傍点]」]大きくて完からざるものよりも。
 俳句――俳句的――俳句性
□与へるもののよろこび、与へられるものゝさびしさ。
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 十二月十一日[#「十二月十一日」に二重傍線] 晴れたり、曇つたり。

酒一升借りて、肴をちよつぴり買うて、樹明君と一杯やらうと思ふ、お互に慰め合ひたい、樹明君は当面のマイナス難を忘れ、私は連夜の不眠を紛らさう。
今日は郵便やさんは来ないのか、さびしいなあと独語してゐたら、正午のサイレンが鳴つてから、やつてきた、いろ/\のたよりを持つて、――うれしかつた。
待つて、待つて、待ちくたぶれてゐるところへ樹明君がやつてきた、さつそく飲む食べる話す、……私は待ちきれないで、待つ身につらき置炬燵で一本ひつかけてゐたが、――ほどよく酔うて、街を歩いて、ほどよく唄うて、別れて戻つて、ぐつすり寝た。

 十二月十二日[#「十二月十二日」に二重傍線] 小春日和、まことに日々好日だ。

昨夜の残酒残肴で、朝からほろ酔機嫌!
裏山の雑木がもみづいて、しんみりと朝日を浴びてゐる、いゝね、いゝね、ひとりで眺めるには惜しい。
身辺整理、必要な物以外は身辺に置かないのが私の持前だ、古い手紙やハガキを燃やして湯を沸かす!
緑平いよ/\緑平[#「緑平いよ/\緑平」に傍点]、といふ題で彼の人物と作品とを評すべく、いろ/\考へる。
私も私自身に少しづつ自信[#「自信」に傍点]が持てるやうになつた、自分の作品を愛するやうになつ
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