出。
純真に生きる[#「純真に生きる」に傍点]、これが私の一切でなければならない。
従容として、私は生きよう、そして死なう。
流れるままに流れよう、あせらずに、いつはらずに。
十月二十日[#「十月二十日」に二重傍線]
快晴、身心安静。
私の境地は悠々自適でなければならない、私の行動は逍遙遊でなければならない。
酒が飲みたくなつた、煙草も吸ひたくなつた、御馳走が食べたくなつた。……
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・柿落葉そのままそれでよい日向
・米をとぐ手のひえ/″\と秋
・熟柿もぐとて空のふかさよ
・病めるからだをよこたへて風を聴くなり
・秋もをはりの日だまりのてふてふとわたくし
[#ここで字下げ終わり]
十月廿一日[#「十月廿一日」に二重傍線]
晴れて明るく、むなしくはてなく、澄みてかぎりなし。……
十月廿二日[#「十月廿二日」に二重傍線]
晴、門外不出六日間、自分を見詰めつゞけてゐる。
夕、樹明来庵、酒と煙草とありがたし、そして玉ころがしとはおもしろし。
十月廿三日[#「十月廿三日」に二重傍線]
曇、樹明徃訪。
やつと工面して、冬物を質受して、妹を訪ねる、子の結婚について相談するために!
肉縁はたちがたくしてなつかしい。
十月廿四日[#「十月廿四日」に二重傍線]
曇、帰庵休養、身心の衰弱いかんともしがたし、昨日の茸狩がこたえたのであらう。
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・茂るまゝにして枯れるまゝにして雑草
みんないつしよに茸狩すると妹の白髪(妹の家にて)
落葉ふか/″\と茸はしめやかにある
・秋風のふく壁土のおちること
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十月廿五日[#「十月廿五日」に二重傍線]
故郷宮市は花御子祭にて賑ふならん。
昨日貰つてきた黒茸を焼いて麦飯を腹いつぱい。
熊本へ行かなければならない、彼女と談合しなければならない、行きたくもあり行きたくもなし、逢ひたくもあり、逢ひたくもなし、――といふ気持。
あれこれとおくれて、四時の汽車で出発。
複雑な微妙な心理状態だつた。
十一[#「一」に「マヽ」の注記]月廿六日
十一月廿七日
十一月廿八日
『旅日記』
十一月廿九日
十一月卅日
十一月卅一日
十一月一日[#「十一月一日」に二重傍線]
午後五時帰庵、やれ/\と思つた、そしてすぐ寝た。
九州行そのものは悪くなかつたけれど、熊本はやつぱり鬼門だつた。
○出かけて、帰つてきて、庵のよさ、自分のよわさがよく解る、山頭火には其中庵の外におちつくところなし。
柿の落葉、茶の花、みんなよろしい。
がつかりして、ぐつすり寝た。
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つかれてかへつてきて茶の花
・伸き[#「伸き」に「マヽ」の注記]のびてゐて唐辛赤うなる
・すすきをばなもうららかにちるや
・まいてまびいてつけてきざんでかみしめてゐる
水前寺にて
・水は秋のいろふかく魚はういてあたまをそろへ
・柿が赤くて住めば住まれる家の木として
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十一月二日[#「十一月二日」に二重傍線]
晴、風。――
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さびしけれどもしづかなり
まづしけれどもやすらかなり
[#ここで字下げ終わり]
すなほに、すなほに、そしてすなほに。
夜、樹明来、しんみりと話す。
十一月三日[#「十一月三日」に二重傍線]
しぐれ、明治節、農学校運動会の騷音。
東京の井師五十歳祝賀句会へ打電――
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アキゾラハルカニウレシガルサントウカ
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野菊、りんだう、石蕗、みぞそばの花、とり/″\に好きだ。
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・みんな働らく刈田ひろ/″\として
・あぜ豆もそばもめつきり大根ふとつた
・たつた一つの、もぎのこされた熟柿をもがう
・垣も茶の木で咲いてゐますね
・秋もをはりの夜風の虫はとほくちかく
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十一月四日[#「十一月四日」に二重傍線]
終日読書。
私は熊本行を契機として転向、といふよりも復帰することが出来た。……
○……持つべきものは子なりけり、私は私を祝福しなければなるまい。
方々へたよりを書く。
十一月五日[#「十一月五日」に二重傍線]
晴、何とうらゝかな、曇、何としづかな。
洗濯、施肥、そして入浴、一杯ひつかけました。
櫨がもう紅葉してゐる、雑木紅葉がだん/\うつくしくなる、雑草は日にまし枯れてゆく。
○濁酒から泥水へ――私の一生はかうした経路をたどりつゝありはしなかつたか!
うれしい事は、アルコール渇望[#「アルコール渇望」に傍点]が薄らぎつゝあることである、酒に対する執着さへなくなれば、私は私の欣求する生活に入ることができる。
○動かうにも動けない、しばらくぢつとして、身を養ふ、いや心
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