けさうにもないし、あまり行きたくもない、戯れにざれうたを作つて自から独り笑ふ――
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捨丸きこか
酒のもか
のめばきゝたい
きけばのみたい
どちらもやめて寝るとする
□
・空のあをさへ枯れておちない葉のさわぐ
・仕事しまうて今年もをはりの柿をもぐなど
・昼月ほのかに一ひらの雲かげもとゞめない
・ゆふ闇のたゞよへば楢の枯葉のしきりに鳴れば
不眠二句
・ねむれない夜の鶏はなけども明けない凩
・うと/\すれば健が見舞うてくれた夢(病中不眠)
(健は離れて遠い私の独り子の名)
・お祥忌の鐘が鳴り耕やす手を休め
飛行隊通過
・冬空ちかく爆音の脅威
隣の娘
・けふはお嬢さんで白いシヨールで
×
「柿落葉[#「柿落葉」に白三角傍点]」
[#ここで字下げ終わり]
十二月十九日[#「十二月十九日」に二重傍線] 晴、冬らしくなつて曇る。
悠々として酒を味ふ[#「悠々として酒を味ふ」に傍点]――かういふ境涯でありたい。
終日、第三句集山行水行[#「山行水行」に傍点]の草稿をまとめる。
夕方から、樹明君に招かれて学校の宿直室へ出かける、八日ぶりの会話[#「八日ぶりの会話」に傍点]であり(途上挨拶をのぞいて)八日ぶりの酒[#「八日ぶりの酒」に傍点]であつた(濁酒二三杯はひつかけたが)。
食べすぎて飲みすぎて、やつと帰庵して、そのまゝぐつすりと寝た、連夜の睡眠不足をとりかへした。
不眠の苦痛は不眠症にかゝつたものでないと、ほんたうには解らないだらう。
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「ぐうたら手記」
□このみちをゆく[#「このみちをゆく」に白三角傍点]――このみちをゆくより外ないから、このみちを行かずにはゐられないから――これが私の句作道[#「私の句作道」に白丸傍点]だ。
□芸術家の胸には悪魔がゐる、その悪魔が出現して、あばれた時に芸術家は飛躍する、悪魔がころんで神の姿となるのである、芸術的飛躍は悲劇である[#「芸術的飛躍は悲劇である」に傍点]、それは人生で最も深刻な、最も悲痛な行動の一つである。……
□捨てて捨てて、捨てても捨てても捨てきらないものが、それが物の本質であらう(さういふ核心はほんたうには存在してゐないのだらうが)。
□雲丹を味はひつつ物のヱツセンスについて考へた。
□大蘇鉄の話(旦浦時
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