草点描)――
私は晩秋初冬が好きだ。
小春日のうらゝかさは春ののどけさ以上である。
草のうつくしさ、萠えいづる草の、茂りはびこる草の、そして枯れてゆく草のうつくしさ。
雑草! その中に私自身を見出す。
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十一月廿七日[#「十一月廿七日」に二重傍線] けふも雨、おぼえず朝寝、午後は晴。
Kからの手紙が私の身心を熱くした。……
おだやかな、まことによい日であつた。
午後四時過ぎ、伊東さんが約の如く来庵、国森君へ電話する、酒と魚と豆腐とを買うてきて、三人で親しく話し合ひながら飲む、近頃めづらしいよい酒[#「よい酒」に傍点]であつた(街へいつしよに出て、わかれが何となくあきたらなかつたけれど)。
酔うてやつと帰庵、そのまゝ寝た、弱くなつたものだよ、山頭火も。――
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友、銭、酒
友はありがたい、銭はほしい、酒はうまい。
友を持ち、銭があつて、酒があつてはよすぎる!
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十一月廿八日[#「十一月廿八日」に二重傍線] 晴。
きれいさつぱりと昨日までの事は忘れてしまつて、新らしく生きよう!
寒い、冷える、――もう冬だなと思ふ。
やつぱり、からだのぐあいがよくないので入浴、かへりみち、うどん玉を買うてきて、それで夕飯にする。
風邪心地、早寝する。
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・とつぷり暮れて一人である
・雲がみな星となつて光る寒い空
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十一月二十九日[#「十一月二十九日」に二重傍線] 大霜。
バケツの水が初氷となつてゐた、いはゆる霜日和、ふとんや何やかや干す。
近来、朝寝をするやうになつた、そして朝食がまづくなつた、これらの事実に徴しても身心の衰弱が解る。
うれしいたより。……
霜日和が雪もよい空となり寒い風が吹きだした、いよ/\冬ごもりである。
酒屋の店員、米屋の主人、来庵して閑談暫時、米と炭とを買ふた、ありがたし。
米屋の主人I氏から香仙粉一袋を頂戴した、日本的家庭の飲物としても食物としてもこよなき品である、そして私をして懐旧の感慨に耽らしめる。
ぐつすりとようねむれた、享楽情調を去つて感謝気分に入るとき、安眠は恵まれる。
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雪中行乞(改作)
・雪ふりかゝる法衣おもうなる
重雄君新婚
・霜晴れ、向きあうて食べること(改作)
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