でこらへてゐた品物を買ふ、煙草、マツチ、ハガキなど、そして一杯ひつかける酒を餅に代へる、十銭で七つ。
辛いものをやめてゐると甘いものが食べたくなる、今の私はアルコールよりも砂糖の方に心をひかれる!
人間の嗜好といふものも面白い。
餅を仏様に供へて回向、観音様も先祖様もめづらしい御馳走を召し上つて下さいまし。
△井戸の水が雨で増して濁つてゐる、濁れる水の色もさびしいことの一つだ。
私もさびしがりやにあともどりしつゝあるやうだ。
夜はあまりに月がよいので、田圃を歩き、そして街へまで出かけて、ついでに理髪、うれしかつた。
△貪る心[#「貪る心」に傍点](殊に酒に対して)驕る心[#「驕る心」に傍点](殊に自分に対して)が弱くなつた、そして怺へる心[#「怺へる心」に傍点](物に対して)堪へ忍ぶ心[#「堪へ忍ぶ心」に傍点](自他に対して)が強くなつた、病痾の賚賜である。
△死を待つ心[#「死を待つ心」に傍点]、それはまことに落ちついた、澄んで湛へた、しづかな、しんみりとした心である。
△一期一会の人生[#「一期一会の人生」に傍点]である、その時その場のその物をしみ/″\と味はへ、私は山を観るとき、空を仰ぐとき、草に触れるとき、人に接するとき、酒を飲むとき、飯を食べるとき、……すべてのものをしみ/″\と味ふ。
△太陽と水[#「太陽と水」に傍点]とは保護者であり導師であり、医者でもある。
水を飲んで日光を浴びてゐると、私の身心は蘇生する。
△いつも安いものは米[#「米」に白三角傍点]、いつも高いものは酒[#「酒」に白三角傍点]。
△私の生活になくてならない、一日も缺ぐことの出来ない、そしてあまりに安いものは食塩とマツチ[#「食塩とマツチ」に傍点]。
食塩は一ヶ年間に五銭宛四回、此代金弐十銭。
マツチは一年二函、これも二十銭。
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・野原をよこぎるおもひでの月がかたむいた
・櫨の一枝、机の上に秋がある
・うらの畑のとうがらし赤くてお留守
改作追加一句
・ゆふべはやりきれない木蓮のしろさ
行乞
・いつから笠に巣くうたる蜘蛛といつしよに
・枯れるものは枯れてゆく草の実の赤く
・枯れゆく草のうつくしさにすわる
[#ここで字下げ終わり]
十一月廿一日[#「十一月廿一日」に二重傍線] 晴、朝の雲のうつくしさ、曇。
やゝ寒い、足のつまさきが冷たい、裏藪で鶲が
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