ヽ」の注記]するだらう、石火せめぐほどの自己闘争が身をも心をも焼きつくすだらう、そして全身不随となつたならば自殺[#「自殺」に傍点]あるのみである、それで自他共に助かるのである(これが私の覚悟の一面である)。
△性慾をなくした安けさ、アルコールが遠ざかりゆく静けさ(すこしは何となくさみしいな)。
夜はねむれないのでおそくまで読書。
牧句人句集「木の端集[#「木の端集」に傍点]」を読み直して、君の熱意と巧妙とにうたれた。
詩歌新人の「屋上の旗[#「屋上の旗」に傍点]」も興味を以て読んだ。
十月十日の月がさえ/″\とうつくしかつた。
[#ここから2字下げ]
 明けるより小鳥の挨拶でよいお天気で
・残された二つ三つが熟柿となる雲のゆきき
・時計を米にかへもう冬めくみちすぢ
   ―(こんな句もある)―
 ま夜中ふと覚めてかきをきかきなほす
[#ここで字下げ終わり]

 十一月十七日[#「十一月十七日」に二重傍線] 晴、曇、肌寒い。

あれやこれやとすればすることはいくらでもある、今日だつて、草取、窓張、洗濯。……
△友よ[#「友よ」に傍点]、私を買ひかぶる勿れ[#「私を買ひかぶる勿れ」に傍点]――と今日も私は私に向つて叫んだ、彼は私を買ひ被つてゐる、私に善意を持ちすぎてゐる、君は私の一面を見て他の一面を見ないやうにしてゐる、君は私の病所弱点缺陥を剔抉し指摘して、私を鞭撻しなければならない、私は買ひ被られてゐるに堪へない、私は君の笑顔よりも君の鞭を望んでゐる、――これは澄太君に対する私の抗議――といふ外あるまい――である。
△私がどんなに醜い夢を見るか、私が酔うた場合にどんなに愚劣であるか、私が或る日或る場合、或る事件或る人に対して、どんなに卑怯であり利己的であるか、――それをあなたは知らなければなりません、私はあなたに対して、あなたが私を正しく批判して下さることを熱望してゐるのです(これも澄太君に)。
山田酒店のSさんがやつてきて、しばらく話した。
終日就床、読書思索。
樹明遂に来らず、約束が守れないほど酔ひしれた彼でないことを祈る。
△慾望がうすらぐといふことが――具体的にいへば、性慾は勿論、酒も煙草もこらへられるし、三度の食事すらもあまり欲しくない――私をして事物――自然、人生、私自身――を正視直視[#「正視直視」に傍点]せしめる、生活意力の沈潜[#「生活意力の沈潜」
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