まけてゐた。
ヱキのポストまで、――やつと行つてきた。
○ありのままに一切を観る[#「ありのままに一切を観る」に傍点]。
○与へられるものを与へられるままに受入[#「与へられるものを与へられるままに受入」に傍点]け[#「け」に「マヽ」の注記]る[#「る」に傍点]、それを咀嚼し消化し消化する生活。
○いつもそく/\として身にせまるもの[#「いつもそく/\として身にせまるもの」に傍点]、それは流転のすがただ。
○自己省察がアヤフヤだ、だから現実把握もアヤフヤだ。
あまりにしづかな、しづかすぎてやりきれないほどのゆふべだつた。
終日終夜読書。
[#ここから2字下げ]
・こゝに枯れたるこの木の冬となる(庵の枇杷樹)
・大根漬けてから長い手紙を書く
・ひなたはあたゝかくやがて死ぬる虫
 いつとなく草枯れて家が建ち子が泣いてゐる
 お寺の鐘が鳴りだしました蔦紅葉
 病めるからだをあるかせてゐるよ草の実よ
 虫なくや咳がやまない
 なんだか人なつかしい草はみのつてゐるみち
 あまりひつそりして死相など考へては
[#ここで字下げ終わり]

 十一月十一日[#「十一月十一日」に二重傍線]

のどかな晴れ、小鳥が山から出て遊ぶ。
朝、樹明来庵、昨夜の残りの酒を飲む。
お茶漬さら/\、樹明おくるところの辛子漬で。
ぬけさうでぬけなかつた歯がぬけた、ほつとしたさびしさを味ふ、もう堅いものは食べられない、食べものの味がなくなつた、噛まなければ、噛みしめなければ物の味は出てこない、幸にして酒は液体、そして別物だ、流動のなかに酒のうまさはある。……
午後散歩、折から女学校の運動会、ちよつと見物、ぶら/\帰つてくると、女客が二人、縁に腰かけて待つてゐられた、TさんSさんといふ、何も話すことはないので、私の心境について話した。
[#ここから2字下げ]
・山のぬくさはりんだうひらく
 酒を買ふとて踏んでゆく落葉鳴ります
・藪のむかうまで夕日のつばふ[#「ばふ」に「マヽ」の注記]き
・なんぼう考へてもおんなじことの落葉をあるく
・そこに夕月をおき枇杷は花もつ(雑)
・冬夜むきあへるをとことをんなの存在
・木の葉ふるところ眼をとぢるとき
[#ここで字下げ終わり]

 十一月十二日[#「十一月十二日」に二重傍線]

まことに日本晴、あまり晴れすぎたからか、夕方から曇。
秋のよろしさ、田園のよろしさ、独居のよ
前へ 次へ
全57ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング