リでない、マコトである。
[#ここから1字下げ]
┌──────────────────────┐
│近在散歩、                 │
│  どこへゆくか、いつもどるか、わかりません│
└──────────────────────┘
[#ここで字下げ終わり]
かう書き残して置いて歩く、時計をまげて一杯やる、そして自動車に乗り込んでしまつた。
大田の町へ運ばれた、そして伊東君のお客となつた、酔ふた、眠つた。

 十月十四日[#「十月十四日」に二重傍線]

曇、大田の伊東君の家庭の中にゐた。
身心がすぐれないので、早々帰庵。
衰へたるかな、山頭火!
米がない、銭もない、麦はある、それを炊いて食べる、これがホントウの麦飯だ、あまりうまくはないな。
[#ここから2字下げ]
 枯草あたたかう犬は戻つてきてゐる(Sよ)
 こころむなしく日向をあるく
・もいではすする熟柿のぬくとさは
・空のふかさへ変電所の直角形(改作)
・あかるくするどく百舌鳥はてつぺんに
[#ここで字下げ終わり]

 十月十五日[#「十月十五日」に二重傍線]

曇、時々雨となる。
○明るい空しさ[#「明るい空しさ」に傍点]――これが今日此頃の私の気分。
○貧閑[#「貧閑」に傍点]――まことにしづかで、ほんたうにさみしい。
Sがまたやつてきてゐるけれど、与へる物がない。

 十月十六日[#「十月十六日」に二重傍線]

曇、そして雨、百舌鳥がやたらに啼く。
うれしい手紙、それは未見の新らしい友から。
やうやくにして酒と飯とにありついた。
樹明君からも白米のお布施。
夕方、君はさらに酒と魚とを持つて来庵、それから、私はまた恥づかしい私となつた。

 十月十七日[#「十月十七日」に二重傍線]

雨、やがて晴、ほがらかな憂欝[#「ほがらかな憂欝」に傍点]とでもいはうか。
樹明君やつてきたがすぐかへる。
[#ここから2字下げ]
・みごもつてよろめいてこほろぎのいのち
・日向ぼつこはなごやかな木の葉ちつてくる
・ゆふかぜのお地蔵さまのおててに木の実
・日かげいつか月かげとなり木かげ
 空が風が秋ふかうなる変電所の直角形(改作)
[#ここで字下げ終わり]

 十月十八日[#「十月十八日」に二重傍線]

晴、自省あるのみである、苦しめるだけ苦しめ。

 十月十九日

晴、徹夜展転反側。――
三日間まつたく門外不
前へ 次へ
全57ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング