気分もそんなだつた。
一昨日の汚れものをやつと片づける、鶏肉の脂肪でズル/\するので閉口した。
何となくいら/\する日である、心持が険しくなつて、犬のぢやれつくのも癪にさわる。……
自己省察[#「自己省察」に傍点]。
人間の一生、自我の生活。
私はつつましく、きよく、あたゝかく生きてゆく外はない。
身心不調、発熱倦怠。
Sの弱虫め、猫にとびつかれて悲鳴をあげた。
S、お前は我儘だぞ、かしわ汁をかけない飯をたべないとは。
九月廿六日[#「九月廿六日」に二重傍線]
雨、よくねむれた、暗いうちに起きる。
Sの我儘が私の我儘だ、彼の姑息が私の姑息ではないか、もつと強く、もつと愿に、もつと朗かであれ。
うつら/\として悪夢の連続。
私はよく寝るが――眠るのではないが――Sもよく寝る、寝るより外ないからでもあらうが。
五時頃、めづらしくT女来庵、待ちあぐんでゐると、樹明君とIさん来庵、むろん、酒も下物も。
とろ/\、どろ/\、そしてぐう/\!
よく飲んでよく寝た、極楽、地獄、ヨカヨカ。
[#ここから2字下げ]
明けないうちから藁うつくらしの音がはじまつた
・ゆふべはあんまりしづかなたわわな柿
・大風ふいていつた蟻はせつせとはたらく
・お地蔵さまへ生えて鶏頭の咲いてゐる
・秋の日の暮れいそぐ蒲焼のにほひなど
・いつからともなく近眼に老眼が、すゝきとぶ
ま昼虫なくそこへぽとりと柿が
[#ここで字下げ終わり]
九月廿七日[#「九月廿七日」に二重傍線]
晴、ゆうぜんとして、或はぼうぜんとして。
Sが卑怯な我儘な振舞をするので、腹が立つて打つた、あゝ何故にSを打つたのだ、私自身を打つべきではないか、敬君よ、早くSを連れていつてくれたまへ、彼は私をして私自身をあまりにまざ/\と見せつける!
近郊散歩、Sを連れて。
昨夜の山頭火狂乱の跡を観て歩く、誰も知らない、知つてゐるのは山頭火自身だけだ!
[#ここから2字下げ]
・むすめの竿がやつと熟柿へとどいて青空
・住む人はない秋ふかい花をもらふ
・さうぼうとして街が灯れば木の葉ちる
足音ちかづくよな、柿の葉おちるわおちるわ
・をとことをんなと月が冴えすぎる空
[#ここで字下げ終わり]
九月廿八日[#「九月廿八日」に二重傍線]
晴、当面の仕事は何か、――まづ書債を果たす、これだけでもサツパリした。
午前樹明徃訪、午後は樹明来
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