何を食べてもうまかつた私が、何を食べてもうまくない私となつた、横着な私となつたのだ、ニヒリストとなつたのだ。
ちよつとポストまで、ちよつと一杯ひつかけたが苦しかつた、何とニガイアルコールだらう。
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・わらやしづくする朝の虫のなく
・しんかんとして熟柿はおちる
・つく/\ぼうしもをはりの声の雨となり
・夜のふかくこほろぎがたたみのうへに
・灯火一つ虫がとんできては死ぬる
・彼岸花さくふるさとは墓のあるばかり
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九月十八日[#「九月十八日」に二重傍線]
晴、まつたく秋だ。
久しぶりに入浴、髯など剃つて、ゆつたりした気分で、寝ころんでゐると、夕方、約の如く敬治君来庵、間もなく、樹明君も来庵、お土産の酒と蒲鉾とで一杯ひつかけて街へ。
そして待望の街の灯[#「街の灯」に傍点]を観た、やつぱりよかつた、チヤツプリンの本質に触れたやうな思ひがした、日本映画は新派悲劇的で興がなかつた。
おとなしく敬君といつしよに帰庵、今夜もよくはねむれなかつた、一時間ばかりはぐつすりねむつたが。
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・あさつゆのしそのはなこぼれては
・藪のなか曼珠沙華のしづか
なんぼでも落ちる柿の木のしづくして
・汲みあげた水の澄む雲かげ
・水は透きとほる秋空
・秋空のどこかそこらで何か鳴く
・おちついて柿もうれてくる
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九月十九日[#「九月十九日」に二重傍線]
曇、五時前に起きて朝飯の支度。
酒があまつてゐたので朝酒、いつものやうにうまくない、呪はれた山頭火[#「呪はれた山頭火」に傍点]!
敬君は下関へ出張、駅まで見送る、戻つてから、預つた愛犬Sと遊ぶ。……
ハガキが来たので鯖山の禅昌寺へ、大山君に会ふために。
○犬と遊ぶ[#「犬と遊ぶ」に傍点]、――随筆一篇書けます。
○単調と単純、――それはすなはち、世間生活と私の生活。
ヤキムスビ、――犬に十分与へておいて残飯をそれに。
澄太君からのハガキで、同君が鯖山の禅昌寺に出張してゐて、そしてとても訪ねてくれる余裕がないといふので、こちらから出かけて、逢うてくるつもりで、田舎道を歩きだしたが、いやはや濡れた/\困つた/\、『雨はふります、傘はなし』と子供にひやかされたりして、――とうてい、行きおほせないので、湯田の温泉で、冷えたからだをあたゝめてから、また濡れて戻
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