しで歩けばふるさと
・さみだるるやはだしになりたい子がはだしとなつて
・なんとよい月のきりぎりす
・はだかで筍ほきとぬく
・竹にしたい竹の子がうれしい雨
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六月廿七日[#「六月廿七日」に二重傍線]
曇、よく睡れないので明けきらないうちに起きた、水鶏(?)がしきりに啼く、あはれな声で。
草苺のうつくしさよ。
朝酒のよろしさ、一人のよろしさ。
ほろ酔機嫌で、床屋へ、湯屋へ、酒屋へ、質屋へ、仕立屋へ、そして防府へ行つた。
三田君の宅に泊めて貰ふ、E君にもI君にも逢ふことは逢ふたが、もう彼等と私との間には友情が残つてゐない、三田君は特別だ、彼は世間的には失敗した方だけれど、人間としてのあたゝかさを失つてゐない、彼のあたゝかさは沸かし[#「沸かし」に傍点]さ[#「さ」に「マヽ」の注記]あたゝかさ[#「あたゝかさ」に傍点]でなくして湧くあたゝかさ[#「湧くあたゝかさ」に傍点]だ。
月はよかつたが蒸暑い夜だつた、飲みすぎたので寝苦しかつた。
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・ならんで竹となる竹の子の伸びてゆく雨
・竹となりゆく竹の子のすなほなるかな
・山から山がのぞいて梅雨晴れ
月夜の青葉の散るや一枚
・もう一めんの青田となつて蛙のコーラス
・がつがつ食べてゐるふとると殺される豚ども
・街はうるさい蠅がついてきた
ついてきた蠅でたゝき殺された
・風ふくとんぼとまらないとんぼ
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六月廿八日[#「六月廿八日」に二重傍線]
晴、いよ/\空梅雨だ、もう真夏の暑さである。
昨日の失敗を省みて、気短かと早合点とを戒める。――
朝、九時前にオヨリデキヌ一一ジ二〇ヱキデオアイシタシといふ電報が砂吐流君から来た、で、十時過ぎには駅へ出かけて、大社線十一時弐拾三分止の列車を待つた、が、車内にもプラツトにもどこにも砂君の姿は見えない、そこで気短かの私は早合点して、さては何かの事情で延引したのだらう、留守中に何とかいつてきてゐるかも知れないと考えたので、急いで帰庵したのである、そして念のために、学校に樹明君を訪ねたら、案の定(といふ風に感じたのである)、砂君が自動電報[#「報」に「マヽ」の注記]をかけて、私を探しても見当らないから、残念ながらこのまゝ帰京するといふことであつた、それは十一時三十分頃だつたといふ、私もその頃駅の附近にゐた、もうすこし待つて十一時四十分東上急行車の発着までゐればよかつたのだ(砂君は多分自動車でやつて来て、その列車に乗り込んだのである)、人生の事おほむね斯くの如し、ほんの五分か十分の現在が当来の十年二十年となるのである。
何ぞ塩の安きや[#「何ぞ塩の安きや」に傍点]、私は一ヶ年間に五銭づゝ三度しか塩を買はない、それで十分なのである、一年十五銭の塩代だ。
宮市はふるさとのふるさと[#「ふるさとのふるさと」に傍点]、一石一木も追懐をそゝらないものはない、そして微苦笑に値しないものはない。
天神様へ参詣した、通夜堂から見遙かす防府はだいぶ都会らしくなつてゐる、市となるのも時の問題だらう。
町役場で戸籍謄本を受ける、世間的に処理しなければならないことが私にもある!
駅前の菖蒲園を見た、日本的なのがうれしかつた。
十一時の汽車で帰庵、うちがいちばんよい(といふことは防府が私をひきとめるだけのものを持つてゐないといふことだ)。
△……足らで事足る生活[#「足らで事足る生活」に傍点]……それが私の現在の、そして将来の生活でなければならない。
日が傾いてくると、きゆつと一杯ひつかけたくなつて、もうたまらないので、わざ/\T店まで出かけて、焼酎一杯、息なしに飲む、だいたい焼酎を私は好かない、好かないけれど酒の一杯では酒屋の前を通つた位にしかこたえない、だから詮方なしに焼酎といふことになる、酒は味へるけれど、焼酎は味へない、たゞ酔を買ふ[#「酔を買ふ」に傍点]のである、その焼酎がいかに私の身心を害ふかは明々白々だ、だから、焼酎を呷ることは、まあ自殺――慢性的な――今の流行語めかしていへば slow suicide だ! それはむしろ私に相応してゐるではあるまいか!
△転ぜられるところが転ずるところ[#「転ぜられるところが転ずるところ」に傍点]、そこは物心一如[#「そこは物心一如」に傍点]、自他不二だ[#「自他不二だ」に傍点]。
△腐つた物をたべてもあたらない、――こゝまでくるとりつぱにルンペンの尊さ[#「ルンペンの尊さ」に傍点]を持つてゐる。
いはでもの事をいふ私、しなければならない事をしない私。
ふと眼がさめたら、とてもよい月夜、もう十二時を過ぎてゐた、近来稀な快眠熟睡だつた。
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防府にて
・この家があつてあの家がなくなつてふる郷は青葉若葉
・青田はればれとまんなかの墓
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