に傍点]とを失ふ勿れ。
すなほに受ける、そしてすなほに現はす。
やうやく雨になつた、よい雨だが、風が落ちるとよいのだが。
△在るところの世界[#「在るところの世界」に傍点]について考察する、在るべき[#「在るべき」に傍点]、在りたい[#「在りたい」に傍点]、在らねばならない世界[#「在らねばならない世界」に傍点]、在らずにはゐない世界[#「在らずにはゐない世界」に傍点]。
夜は碧巌録を読む、いつ読んでもおもしろい本である、宗教的語録として、そして文芸的表現として。
趙州三転語[#「趙州三転語」に傍点]、彼は好きな和尚だ。
[#ここから2字下げ]
・すでに虫がきてゐる胡瓜の花
・さつそくしつかとからみついたな胡瓜
・麦がうれたよ嫁をとつたよ
・なにがなしあるけばいちじくの青い実
・子を負うて魚《さかな》を売つて暑い坂かな
・茂るだけ茂つて雨を待つそよぎ
・蜂がてふてふが花草なんぼでもある
・風のふくにしいろい花のこぼるるに
・風の中の蟻の道どこまでつづく
・風ふくてふてふはなかよく草に
・風ふく山の鴉はないてゐる
・いちにち風ふいて永い日が暮れた
暮れてふきつのる風を聴いてゐる
[#ここから1字下げ]
自[#「自」に白三角傍点]殺に[#「に」に白三角傍点]ついて[#「て」に白三角傍点] (安心決定とは)
自殺は人間の特徴だといふ、同時に特権[#「特権」に傍点]でもあると思ふ。
自殺者は必ずしも生死透脱底の人ぢやない、否、寧ろ生死の奴隷が多い、しかし自殺は一大事であるには相違ない。
死にたくて死ぬる人もあらう、死にたくなくて死ぬる人もあらう、死にたくもなく、死にたくなくもなくて死ぬる人もないことはなからう。
ほがらかな自殺、幸福な自殺者、それは第三者には到底理解されない心境であり体験であると、私は考へる。
自殺の方法、それは自殺者に任したがよい。
自殺者の手記、それは最も下手糞な文芸作品だらう。
天も白く地も白く、そして人も白く光る、白光は死である、死の生[#「死の生」に傍点]である(死の生[#「死の生」に傍点]ではあるが、生の死[#「生の死」に傍点]ではない)。
┌存在
生命│生存
└生活
生死去来
行│遊行
乞│苦行
句│難行
作│易行
独り遊ぶ
いつしよにあそぶ
[#ここで字下げ終わり]
六月三日[#「六月三日」に二重傍線]
霽れてゆく空や野や、雨後の朝景色はさわやかである。
野菜畑がいき/\としてきた。……
とても好い、そして暑いお天気になつた。
めうが一茎をぬすんできてたべる、めうがのかをりはよい。
T子さんがメカシて来た、今から掛取にゆくといふ、料理屋のカケがうまくとれるやうになれば、立派な一人前だ。
淡々君を待つ、今日来庵の通知があつたので、――もう、日が暮れるのに来てくれない、待ちきれなくなつて、学校に樹明君を訪れる(今日は宿直なのだ)、病状すぐれないと見えて欠勤、Cへ行つて酒一杯(四日目のアルコール注入だ)、ほろ/\として帰つてくると来客、来客――淡々君、そして耕三君。
暫らく会談、それから街へ、淡々君と私とはバスで湯田へ、耕三君は庵へ(どちらがお客だかわからない、そこが其中庵の其中庵たるところかもわからない!)。
湯田では飲んだ、飲んだばかりでなくフラウといつしよに寝た、しかし幸にして、或は不幸にして一夜だけの童貞であり、処女でありました!
六月四日[#「六月四日」に二重傍線]
朝早く一杯浴びて一杯ひつかける、湯町の朝酒はまことにまことによろし。
淡々君の財布が軽くなつたらしい(私は財布を持つてゐないし、持つてゐても重い日のあつたことなし)、十時のバスで小郡駅まで、そこで私は眠り、君は去つた。
耕三さんは昨夜よく庵で寝てくれたらしい、酒と米とが置いてあつた、ありがたすぎて、あまりにすまなくて。……
さつそく飲む、食べる、そして寝る、あゝ、庵中極楽。
寝た、寝た、ぐつすりねむれた、労れて、ぐつたりして。
酒と女、人間と性慾――こんな問題が考へられてならなかつた。
女よりも酒[#「女よりも酒」に傍点]、酒よりも本[#「酒よりも本」に傍点]、――それが本音だ、私の、今の。
[#ここから2字下げ]
・風をおきあがる草の蛇いちご
・鳴きつつ呑まれつつ蛙が蛇に
・雨をたたへてあふるるにういて柿の花
・霽れててふてふ二つとなり三つとなり
・いつでも植ゑられる水田蛙なく
・夏めいた空がはつきりとあふれる水
[#ここから1字下げ]
『性[#「性」に白三角傍点]慾と[#「と」に白三角傍点]いふ[#「ふ」に白三角傍点]もの[#「の」に白三角傍点]』
性慾といふものは怪物である。
人間が生きてゐる
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