点]ることゝ寝る[#「寝る」に傍点]ことゝの動物か[#「動物か」に傍点]、
高等学校の学生さんと漫談、
瀬戸内海はおだやか、
甲板は大衆的に、
兎の子を持つて乗つた男女
島から島へ、酒から酒へ!
[#ここで字下げ終わり]
船中所見、――
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港について売子の売声、
インチキ賭博、
上陸して乗りおくれた人、
修学旅行の中学生、私も追憶の感慨にふける、
春風の甲板を遊歩する、
団参連中のうるさいことは、
船から陸へ、水から土へ、
[#ここで字下げ終わり]
四時神戸上陸、待合室で六時半まで。
自動車、自動車、自動車がうづまいてゐました。

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・兵営、柳が柳へ芽ぶいてゐる
・旅も何となくさびしい花の咲いてゐる
 しつとりと降りだして春雨らしい旅で
 お寺の銀杏も芽ぐんでしんかん
・そここゝ播いて食べるほどはある菜葉
・水に影あれば春めいて
・春寒い朝の水をわたる
・船窓《マド》から二つ、をとことをなごの顔である
 なんぼでも荷物のみこむやうらゝかな船
 島にも家が墓が見える春風
 銭と銭入と貰つて春風の旅から旅へ(黙壺君に)
[#ここで字下げ終わり]

 三月廿六日[#「三月廿六日」に二重傍線]

歩いて兵庫へ、めいろ居へ。
神戸は国際都市であることに間違はなかつた。
ビルデイングにビルデイング、電車に自動車、東洋人に西洋人、ブルヂヨアにプロレタリヤ。……
めいろ居はめいろ君のやうに、めいろ君が営んでゐた、意外だつたのは、ピヤノのあつたこと。――
わざ/\出迎へて下さつたのに、出迎への甲斐がなくて、めいろ君にも詩外楼にもすまなかつた、それもかへつて悪くなかつたが。
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 ぽつかり島が、島も春風
 島はいたゞきまで菜ばたけ麦ばたけ
・ここが船長室で、シクラメンの赤いの白いの(三原丸)
[#ここで字下げ終わり]

 四月十四日[#「四月十四日」に二重傍線] 坂下から清内路へ。

曇、やがて晴、そゞろ寒い、春がおそい今年で、さらに春がおそいこのあたりで。

 四月十五日 清内路から飯田町へ。

 四月十五日[#「四月十五日」に二重傍線] 蛙堂居。
 〃 十六日
 〃 十七日
 〃 十八日
 〃 十九日
 〃 廿日
 四月廿一日[#「四月廿一日」に二重傍線] 川島病院。
 〃 廿二日
 〃 廿三日
 〃 廿四日
 〃 廿五日
 〃 廿六日
 〃 廿七日
 四月廿八日[#「四月廿八日」に二重傍線]



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大死一番 天地一枚

莫妄想

無常迅速
時不待人
光陰可惜
慎勿放逸

裁断前念後念

大事了畢
身心脱落
断命根
己平究明
大我爆発
三昧発得

天地同根 万物一体
   □
山はしづかにして性を養ひ、水は動いて情をなぐさむ
諸行無常、無常迅速、
諸法常示寂滅相、
眼前景致、口頭語。
[#ここで字下げ終わり]

 四月廿九日[#「四月廿九日」に二重傍線]

四月廿九日、暮れて八時過ぎ、やうやく小郡に着いた、いろ/\の都合で時間がおくれたから、樹明君も出迎へてゐない、労[#「労」に「マヽ」の注記]れた足をひきずつて、弱いからだを歩かせて、庵に辿りついた、夜目にも雑草風景のすばらしさが見える。……
風鈴が鳴る、梟が啼く、やれ/\戻つた、戻つた、風は吹いてもさびしうない、一人でも気楽だ、身心がやつと落ちついた。
すぐ寝床をのべて寝た、ぐつすりとゆつくりと寝た!
[#ここから2字下げ]
 ふるさとはすつかり葉桜のまぶしさ
・やつと戻つてきてうちの水音
・わらやしづくするうちにもどつてる
・雑草、気永日永に寝てゐませう(病中)
[#ここで字下げ終わり]

 四月三十日[#「四月三十日」に二重傍線]

久しぶりにようねむれた、山頭火は其中庵でなければ落ちつけないのだ[#「山頭火は其中庵でなければ落ちつけないのだ」に傍点]、こゝならば生死去来がおのづからにして生死去来だ、ありがたし、かたじけなし。
降つたり照つたり、雑草、雑草。
起きるより掃除(樹明君が掃除してくれてはゐたが)、数十日間の塵を払ふ。
学校に樹明君を訪ねる、君は私が途中、どこかに下車したと思つて、昨日も白船君と交渉したさうな、感謝々々。
街へ出かけて買物、米、炭、味噌、等々(うれしいことにはそれらを買ふだけのゲルトは残つてゐた)。
御飯を炊き味噌汁を拵らへて、ゆう/\と食べる、あまり食べられないけれどおいしかつた。
つかれた、つかれた、……うれしい、うれしい。
とんぼがとまる、てふてふがとまる、……雲雀がなく蛙がとぶ、……たんぽぽ、たんぽぽ、きんぽうげ、きんぽうげ。……
柿若葉がうつくしい、食べたらおいしからう!
方々へ無事帰庵のハガキを書く、身心がぼーつとしてまとまらない、気永日永に養生する外ない。

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