ら2字下げ]
・空梅雨いちにち、どなられてぶたれて馬の溜息
・空は空梅雨の雨蛙なくとても
・その竹の子も竹になつた、さびしさにたへて
・もう死んでもよい草のそよぐや(帰庵病臥二句)
・死ねる薬はふところにある草の花
・灯すよりぶつかつてくる虫のいのちで(改作)
[#ここで字下げ終わり]

 七月十五日[#「七月十五日」に二重傍線]

今日も曇つてゐるが、降りさうでなか/\降らない。
酒に対する執着を放下しないかぎり、私の生活は安定しない。
△まづ、消極的禁酒[#「消極的禁酒」に傍点]を実行しなければならない(進んで呷らないこと、退いて味ふこと、具体的にいひかへれば、ありもせぬ金で買うて飲まないこと、貰ふたら飲むこと、御馳走酒しか飲まないこと)。
△個人的感情――社会的感情――人間的感情[#「人間的感情」に傍点]。
午後、樹明君が来て、ゆつくり昼寝して帰つた、私は今日の君にフイリスチンを感じた、多分、君も今日の私にミサンスロピストを感じたであらう。

 七月十六日[#「七月十六日」に二重傍線]

曇、だいぶ日が短かくなつた。
昨夜はよくねむれた、九時から四時までぐつすりだつた。
街のポストまで、ついでにちよいと一杯、つい破戒してしまつた!
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・青田いちめんの送電塔かな
・虫が蔓草のぼりつめて炎天
・ひでり空、咲いて鬼百合の情熱は
・しげりふかく忘れられたるなつめの実
・きのふのいかりをおさへつけては田の草をとる
・炎天まうへにけふのつとめの汗のしたたる
[#ここで字下げ終わり]

 七月十七日[#「七月十七日」に二重傍線]

曇、今日こそは降りさうな。
たより、いろ/\のおもひ。
蓮華がひらいた、まことに仏の花。
今日の一杯[#「今日の一杯」に傍点]は昨日の百杯よりも明日の千杯よりもうれしい。
午過ぎ、ひよこりと周二さん来庵、暫らく話した。
油虫! この虫には閉口する、すまないけれど見つけしだいに殺す、百足と同様に。
昨日のやうに今日も寝ころんで漫読。
どうしても睡れないから、読んだり作つたりするうちに、やつと夜が明けた、身のつかれ、心のつかれ、かうなつては薬物の力で睡るより外はあるまい。……
[#ここから2字下げ]
・蝉の声はたえずしてきりぎりす
・むしあつく鴉の声は濁つてゐる
 窓へもからんで糸瓜がぶらりと
・風の雀がとまらうとする竹がゆらい
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