せん、云々。
[#ここで字下げ終わり]
T子さんが卵を持つて、樹明君が魚を持つて来た、四人で飲んだり食べたり、寝たり、饒舌つたり。
黎々火君が草をぬき土をうつてくれた、樹明君が苗を植ゑてくれた、これで茄子も胡瓜も十分だ。
暮れてみんな帰つていつた、まことによい一日だつた。
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   改作追加
・藪かげほのと藪蘭の花かな
・いつもつながれて吠えるほかない犬です
・木の芽草の芽いそがしい旅の雨ふる
・からりと晴れて枯木なんぼでもひろへるよ[#「よ」に「朝」の注記]
・もう秋風の、腹立つてゐるかまきり
   発表できない句!(或る時機がくるまでは)
・死ねる薬はふところにある日向ぼつこ(再録)
[#ここで字下げ終わり]

 五月十四日[#「五月十四日」に二重傍線]

寝た、寝た、九時から四時までぐつすりと寝た。
申分のないお天気だ、うらむらくは私の身心がよくない。
風呂へ行く、五月野をよこぎつて。
トマトを植ゑる準備、草取、肥汲。
雑草のうつくしさよ、私は雑草をうたはずにはゐられない。
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・道がひろくて山のみどりへまつすぐ
・けふ播いた苗代へあかるい灯
[#ここで字下げ終わり]

 五月十五日[#「五月十五日」に二重傍線]

今日も好いお天気。
街へ、豆腐買ひに、むろん酒も買ひに。
草も人もしづかなるかな。
播きおくれた山東菜を播く、芽が出ればよいが。
初夏の暑さだ、しかし私はまだ綿入を着てゐる、病人くさいな。
夕方から農学校へ行く、今晩は樹明宿直なので、一杯やらうといふ約束が一昨日ちやん[#「ちやん」に傍点]と成り立つてゐるのである、すこし早すぎたのでそこらを見てまはる、花草はうつくしいが、豚は、食べてゐる豚も寝てゐる豚も、仔豚も親豚もいやらしくつてたまらなかつた、これは必ずしも、ブルヂヨアイデオロギーのせいではあるまいて。
二人で飲んで(彼が飲まないので、殆んど私だけが飲んで)、いゝ機嫌になつて戻つて寝る、まだ十時前だつた。
樹明君は熱があるので、何を食べてもうまくないといふ、私は回復期でもあり粗食してもゐるので、何を食べてもうまいといふ、今夜の場合でも、この蒲鉾はまづいといつて二三片しか口にしない彼、これはうまいよと一枚食べつくした私、寄宿舎のライスカレーなんぞ閉口とばかり二口三口しか食べやうともしない彼、そんなにまづくはな
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