楽しむ」に傍点]。
いつでも餓死する覚悟があれば[#「いつでも餓死する覚悟があれば」に傍点]、日々好日であり事々好事である[#「日々好日であり事々好事である」に傍点]、何のおそれるところもなく、何のかなしいものもない。
食べることが生きることになる[#「食べることが生きることになる」に傍点]、といふ事実は、老境にあつては真実でないとはいへまい。
終日終夜、寝床で読書、ひもじくなれば餅をたべて安らかに。
[#ここから2字下げ]
・遠山の雪ひかる別れなければならない
・草は枯れて犬はたゞほえて
・雪どけのぬかるみのあすはおわかれ
・朝から降つたり照つたり大きな胃袋(ルンペンのなげき)
・かみしめる餅のうまさの夜のふかさの
・なにもかも雑炊としてあたゝかく
・小鳥も人もほがらかな雲のいろ
こゝろあらためて水くみあげてのむ
・ほつかりめざめた春めいた雨の柿の木
ぽつとり椿が雨はれたぬかるみ
[#ここで字下げ終わり]
二月十八日[#「二月十八日」に二重傍線]
雨、しと/\と春めいて降る、出立を延ばした。
午後、風呂へいつた留守に樹明来、ハムを持つてきたといふ、一杯やらずはなるまいといふ、まことに然りで、一杯やる、おとなしく別れる、めでたし、めでたし、あゝめでたし。
餅をたべつゝ、少年時代に餅べんたう[#「餅べんたう」に傍点]を持つて小学校に通うたことをおもひだす、餅のうまさが少年の夢のなつかしさだ。
アルコールのおかげで、ぐつすり一ねむり、それから読書。
[#ここから2字下げ]
・風の中の変電所は午後三時
風ふく西日の、掘りつゞけてゐる泥蓮
・風をあるいてきて新酒いつぱい
・寺があつて墓があつて梅の花
風が出てきて冬が逃げる雲の一ひら二ひら
・水底しめやかな岩がある雲のふかいかげ
・ちかみちは春めく林の枯枝をひらうてもどる
・夜あけの葉が鳴る風がはいつてくる
明日から、東行前記ともいふべき
[#ここから割り注]北九州めぐり[#ここで割り注終わり] 旅日記
[#ここで字下げ終わり]
二月十九日[#「二月十九日」に二重傍線]
晴、寒い、いよ/\出立だ。
樹明君が、約束の珍品を持たせて寄越す、五十銭銀貨弐枚を酒代として、そして旅の餞別として地下足袋、かたじけなく頂戴して歩きだしたことである。
まことに久しぶり行乞の旅である、絡子をかけること
前へ
次へ
全24ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング