に於て、ありたいこと[#「ありたいこと」に傍点]、あらねばならないこと[#「あらねばならないこと」に傍点]、あらずにはゐられないこと[#「あらずにはゐられないこと」に傍点]、それは芸術家の真実であり、制作の内容となるのである。
内容[#「内容」に傍点]は形式[#「形式」に傍点]を規定する、同時に、形式も内容を規定する、しかし、私は内容が形式を規定する芸術を制作したい。
俳句的内容を持つて俳句的形式を活かす俳人[#「俳句的内容を持つて俳句的形式を活かす俳人」に傍点]でありたいのである。
高くして強き感情[#「高くして強き感情」に傍点]、何物をも――自己をも燃焼せしめずにはおかないほどの感情、その感情から芸術――詩は生れる、自己燃焼がやがて自己表現である[#「自己燃焼がやがて自己表現である」に傍点]。
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・お正月の小鳥がうたひつつうたれた
・お正月も降つたり照つたり畑を打つ
・降つては晴れる土にこやしをあたへる
 木の実があつて鳥がゐて山がしづけく
・竹をきる風がふきだした
 風ふく日かなほころびを縫ふ
・いちはやく伸びて咲いたるなづなであつた
・握りあはした手に手のあかぎれ(農村風景)
・ほほけすすきのいつまでも春めいてきた
 雪をかぶりて梅はしづかなる花
・雪、最初の足あとで行く
・雪へ轍の一すぢのあと
・雪をふんで郵便やさんよいたよりを持つてきた
・雪ふる火を焚いてひとり
・ひとつやにひとりの人で雪のふる
・ゆきふるだまつてゐる
・春の雪のすぐとける街のいそがしくなる
・雪の小鳥がかたまつて食べるものがない
・すすきに雪の、小鳥はうたふ
・誰も来ない木から木へすべる雪
・雪あかりの、足袋のやぶれからつまさき
・雪のあかるさが家いつぱいのしづけさ
・春の雪のもうとけて山のしめやかないろ
・このみちいつもおとしてゐる枯枝ひらふ
・少年の夢のよみがへりくる雪をたべても
・濡れて枯草の水をくみあげる
 こやしやつたらよい雨となつた葱や大根や
・一つあれば事足るくらしの火を燃やす
・北朗作るところの壺の水仙みんなひらいた
・こちらをむいて椿いちりんしづかな机
・身にちかくふくらうがまよなかの声
・月がうらへまはつても木かげ
 霜晴うらゝかな鰹節を削ります(桂子さんに)
・『とかく女といふものは』ふくらうがなきます
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 二月十六
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