筍はうまかつた、蕗とはちがつたうまさがある、だが、私は歯がいけなくなつて、ほろ/\抜けるから来年はどうかな(鬼よ笑へ!)。
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 大空をわたりゆく鳥へ寝ころんでゐる
 春たけた山の水を腹いつぱい
・晴れきつて旗日の新国道がまつすぐ
・けさも掘る音の筍持つてきてくれた
・摘めば散る花の昼ふかい草
・送電塔が山から山へかすむ山
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 四月三十日[#「四月三十日」に二重傍線]

曇、をり/\雨、夕方からどしやぶり。
晩春から初夏へうつる季節に於ける常套病――焦燥、憂欝、疲労、苦悩、――それを私もまだ持ちつゞけてゐる。
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・春もどろどろの蓮を掘るとや
・春がゆくヱンジンが空腹へひびく
・くもりおもたい蛇の死骸をまたぐ
・食べるもの食べつくし雑草花ざかり
・春はうつろな胃袋を持ちあるく
・蕗をつみ蕗をたべ今日がすんだ
・菜の花よかくれんぼしたこともあつたよ
・闇が空腹
・死ぬよりほかない山がかすんでゐる
・これだけ残してをくお粥の泡
・米櫃をさかさまにして油虫
・それでも腹いつぱいの麦飯が畑うつ
・みんな嘘にして春は逃げてしま
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